第10話「文化祭と小さな事件」

文化祭当日。

 校門は朝から人だかりで、クラスの出し物も大盛況だった。


「天城、妹ちゃん人気すごいな! 写真撮らせてくれって言われまくってるぞ」


 クラスメイトの言葉に、胸の奥がざわつく。

 視線をやると、葵がエプロン姿でお化け屋敷の入口に立っていた。


(……似合ってる、けど……なんか落ち着かねえ)


 そんなとき、佐伯が葵に声をかけて笑わせているのが目に入る。

 胸がさらに重くなった。


 昼頃、事件が起きた。

 暗幕の裏で飾り付けを直していた葵が、バランスを崩して脚立から落ちかけたのだ。


「危ない!」


 気づけば体が勝手に動いていた。

 葵を抱きとめ、二人して床に倒れ込む。


「……だ、大丈夫?」


 腕の中で葵が震えていた。

 すぐに立ち上がると、佐伯やクラスメイトたちが駆け寄ってくる。


「平気? 手、痛めてない?」


「だ、大丈夫……お兄ちゃんが、助けてくれたから」


 葵が顔を赤くしてそう言った瞬間、周囲からどよめきが起きた。


「え、今“お兄ちゃん”って……?」


 クラスメイトたちがニヤニヤし始める。

 佐伯が複雑そうな表情を浮かべるのが見えた。


 放課後、帰り道。

 葵は少し俯きながらつぶやいた。


「……ありがとう、助けてくれて」


「当たり前だろ」


「……やっぱり、お兄ちゃんは特別です」


 その言葉に、胸が熱くなる。

 もう誤魔化せない。この気持ちは——ただの兄妹愛じゃない。

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