第3話「妹に近づくやつ」

放課後、昇降口で葵を待っていると、見知らぬ男子が声をかけていた。


「転校生だよね? 駅まで一緒に行かない?」


 葵は少し困った顔をして、ちらっと俺の方を見る。


「……あ、すみません。今日は兄と一緒に帰るので」


 そう言って俺の横に来る葵。

 男子は「ふーん」と軽く笑って去っていった。


 家への帰り道、葵がぽつりとつぶやく。


「知らない人に声かけられると、ちょっと怖いですね」


「まあ、ああいうのは無視しとけ。お前、変に人当たりいいから気をつけろよ」


「……心配してくれたんですか?」


 そう言われて、言葉に詰まる。


「べ、別に。兄として普通だろ」


 照れ隠しにそっぽを向くと、葵がくすっと笑った。

 その笑顔が、なぜかさっきの男子を思い出させる。


(……なんで俺が気にしてるんだ)


 家に着くと、母さんと父さんは残業で帰りが遅いらしい。

 二人で夕飯を作ることになり、台所に立つ。


「お兄ちゃん、料理するんですね」


「最低限な。……って言っても炒めるだけだ」


 並んでフライパンを見つめる時間が、妙に長く感じる。

 火加減を直そうとして、指先が触れた瞬間、葵が小さく息を呑んだ。


「……あ、ごめん」


「い、いえ……」


 沈黙。

 さっきまでの和やかな空気が、少しだけ違うものに変わった気がした。

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