【おまけ後編】 ヤンデレの病む病む

 お昼になり、小雨さんは俺の机に弁当箱を置いた。

 三日前からお弁当を作ってくれるようになっていた。そう、小雨さんは料理が得意。しかも、見た目も味も完璧だ。


 毎回アニメや、ゆるキャラのキャラ弁にするほどの腕前。クオリティ高すぎんだろう。


「今日は“かわちい”にしてみました」



 ――かわちい。

 白くて小さくて、丸っこい……不思議な生き物だ。今や老若男女問わず絶大な人気を誇るキャラクター。さすがの俺でも知っていた。

 確かに、白いからお米で簡単に表現できるな。あとはノリを使えば眉毛とか目も簡単に。

 小雨さんの作ったキャラ弁には、ちゃんと焼き卵やタコさんウインナー、そしてから揚げも入っていた。完璧かよ……!


 さっそく“かわちい”くんの目を箸で突き、一口いただく。

 それから、から揚げにも手を出していく。

 ん~、うまい。うますぎるッ。小雨さんの愛情がたっぷりだ。それだけで十分だ。



「この濃い味付けがいいんだよなぁ」

「霜くん、その方が好きだもんね!」



 小雨さんが作ってくれた第一弾のお弁当は薄味だったのだが、すぐに改善してくれた。俺の為にわざわざだ。ここまでしてくれるとは感謝しかない。

 一口一口を味わいながら、俺は手作り弁当を楽しんだ。


 そんな幸せの時間の最中、同じクラスらしき女子が接近。小雨さんのお弁当に関心を寄せていた。



「わ~、お弁当凄いね。小雨さん、お料理得意なんだ」



 黒髪ショートヘアの女子……名前は分からん。

 女子の名前なんて同じクラスでは、小雨さんしか把握はあくしていない。興味がないという方が正しいか。

 しかも、小雨さんも彼女を知らないようだ。ん、あれ……妙に違和感を感じるような。


「えっと、あなたは?」

「私は安曇あずみよ。ただの安曇」



 なんだその自己紹介。変わってるなぁとか思いつつも、安曇さんは清楚系の美人。学級委員長だとか生徒会長にいそうな真面目タイプだ。

 そんな女子が、ギャルである小雨さんに興味を持つとはね。

 いや、視線そのものは俺に向けられている気がした。……え? 俺?



「そう。よろしく」



 小雨さんは、安曇さんに興味ないらしく素っ気ない対応。いや、塩対応した。

 そんな態度を取られたにも関わらず、安曇さんは笑顔で話を続けた。凄いメンタルというか、気にしていないだけか?



「ねえ、相楽くん」

「俺?」

「うん、ちょっと話があるんだ」


「小雨さんに用があるんじゃなかったのかい?」

「実は相楽くんを借りたいんだ」



 小雨さんのお弁当を褒めたのは、俺を連れ出すためか。


 ちょっとくらいならいいか――って、うああああ!!



 目が! 小雨さんの目が殺人鬼みたいになっとるッ!



 あれは明らかに“病む病む”じゃないか!

 ヤベェ、このまま安曇さんについていけば……次にはバラバラ殺人事件だろう。小雨さんを殺人鬼にするわけにはいかない。

 うまく説得せねばっ。



「小雨さん、ちょっとだけだから」

「……えぇ」



 めちゃくちゃ嫌そう……!

 わかっている。

 気持ちはよ~くわかる。

 だけど、安曇さんの話がちょっと気になるんだよな。なにか伝えたいような、そんな目をしているし――これは何かあると、俺は確信した。



「たぶん、なにか悩み事があるんだと思う」

「うーん……どうかなぁ」

「小雨さんのお弁当を褒めてくれたし、悪い子じゃないよ」

「それはそうだけど。――わかった、ちょっとだけだよ」

「ありがとう、小雨さん」



 俺は席を立ち上がろうとしたが、小雨さんが服を引っ張ってきた。

 顔を見ると、妙にぷっくりしていて不満そう。……可愛すぎる。

 本来なら刺殺されても文句は言えないレベルだ。

 だが、許して欲しい。


 俺の嗅覚によれば、安曇さんは“ナニカ”ある。今ここで無視をすれば、昔の小雨さんのように思い詰めてしまうかもしれない。それだけはダメだ。


 せめてもの罪滅ぼしで、俺は小雨さんの手を握った。


「……っ」


 嬉しそうにする小雨さん。小さな声で「行っていいよ」と聞こえた。


 ……今だけは許してくれ!



【続おまけに続く】

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