【おまけ前編】 ぎゃるの命をまた救った話
連日のように悪夢を見る。
あの幼馴染を、
心臓が締め付けられる思いで俺は起床した。
スマホを覗くとロック画面には、小雨さんの横顔の写真。彼女の顔を見れば、俺は一安心できた。
ちなみに、この写真は盗撮でもなんでもなく“撮っていいよ”と許可をもらったうえで撮影したものだ。
「……助かったよ、小雨さん」
ベッドから起き上がり、俺は朝シャワーへ。全身の汗を洗い流した。
今日も学校がある。
あの“事件”から一週間が経過した。
あれから燐は話しかけてくることもなくなり、関わる気配を見せなくなった。つまり、他人となったわけだ。
もう関係修復は見込めない。一度壊れた関係を戻すなんて途方もないことだ。俺自身にそのつもりがないし、今は小雨さんとの時間を大切にしたい。
朝食の食パンを口に押し込めるように食べ、俺は玄関を出た。
すると、そこには制服姿の小雨さんの姿があった。
腰まで伸びるクリーム色の長い髪が美しい。それと、淡いピンク色のネイル。ラメとホロが星のように輝き、とても可愛らしい。
ネイルの知識なんぞ最近まで皆無だったが、小雨さんの受け売りでインプットされたのである。
「おはよ~、霜くん」
俺の存在に気づく小雨さんは、子猫みたいに笑みを浮かべていた。……朝からこんな得していいのか俺。幸せで最高の朝じゃないか。
むず
「お、おはよ。今日もいい天気だね」
なんて挨拶しかできなかった。
小雨さんを前にすると、目を合わせずらい。もちろん、いい意味で。
内心照れていると、俺のそんな感情なんてお構いなしに小雨さんは俺の手を握ってきた。犬のリードのように引っ張られ、歩くことに。
最近の朝は毎日こんな感じだった。
だが、今日は引っ張りすぎた。
力んだせいか、俺も小雨さんも道路側に倒れそうになった。いや、倒れていた。重力強ぇ……じゃなくて、転倒してしまう!
しかも、トラックも接近していた。軽トラだけど!
なんにせよ、このままでは
俺の青春はここで終わる。
いや、俺の命はともかく――小雨さんを死なせるわけにはいかないッ。
「てりゃああぁっ!」
「……そ、霜くん! わっ……」
精一杯、小雨さんの手を引っ張り、手繰り寄せた。すると、軽トラは小雨さんの髪の毛ギリギリで通り過ぎていった。
あっぶねぇー…。
あと数センチ倒れていたら、確実に
「助かったな」
「……あ、ありがと。また命を救われちゃった」
頬を赤くする小雨さんは、ちょっと涙目になりながらも――けれど嬉しそうに微笑んでいた。
その
「…………」
助けられたことの嬉しさより、今向けられた感情の方が数億倍嬉しかった。次第に心がじんじんして、全身に
そうか、やっぱり俺は小雨さんがいないとダメなんだ。
彼女の存在がこれほど大きくなっていたなんて。
◆
雑談を交えながらも学校に到着。
時間には余裕があり、ゆっくりと歩いて教室へ。その道中、廊下では『溝口』のウワサが広がっていた。
なんでも、ヤツは女子に手を出しすぎて悪人扱いされているのだとか。
中でもヒドイのは、女子と大人のゴムなしで行為に至り――妊娠させたとか。しかも、二人も。責任を取らず完全に逃げ回っているらしい。
それを聞いて俺は、なんてカス野郎に幼馴染を寝取られたんだと怒りが沸いた。神が、法律が許してくれるのなら、ナイフで一突きにしてやりたい。だけど、それは脳内だけで完結させておく。犯罪者にはなりたくないからな。
「溝口先輩、ウワサ以上の悪者だね」
さすがの小雨さんもドン引き。
というか、全学年の女子が溝口のヤバさを認識したようで、ここ数日は超警戒されているようだ。
先生たちも厳戒態勢というか、さすがに目を光らせている状況だ。
だけど、溝口は学校をサボっているみたいだ。ここまで犯罪者扱いされれば当然だろうけど。
頼むから、俺の目の前にだけは現れないで欲しい。出現したら、もれなく
「小雨さん、頼むから溝口と会っても話しちゃダメだぞ」
「大丈夫だよ。あたしは霜くんしか興味ないから、他の男子とも話さない」
「そ、それならいいんだ」
そこまで言ってくれるとはっ!
嬉しいねえ。本当に嬉しい。
おかげで俺はやる気が爆上がり。一日がんばれそうだ。
しかも隣の席が小雨さんだからな。一日中、横顔を眺めていられるなんて最高じゃないか。
【おまけ後編に続く】
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