第8話 4大純粋魔法家系ホーリー家の大地へ

「それで、何故あなたが?」


 私はウェールズ公爵家の屋敷の訓練所の中央に立って同じように立っているエイドリアン・シーモアを見つめた。


「フィオレッタさまの身をお守りするためです」


 まあ、前のことは解決済みだとしても私を殺そうとしたでしょ?

 なのに二人っきりで迷いの森探索って反射的に身の危険を感じるわ。


「……お父さまももう少しちゃんと人選してほしかったわ」


 そう呟いた私を遠巻きに見ていた継母のアンナ・ウェールズとマリナ・ウェールズがハラハラと見つめていた。


「お姉さま、お気をつけてください」

「フィオレッタさん、ちゃんと一カ月したら戻ってきてくださいね」


 二人とはホーリー家を継ぐことに決めた後に和解した。

 やはり、二人はとても善良でこれまでのアレやコレやソレやの多大な嫌がらせを水に流して受け入れてくれた。


 アンナは微笑んで抱きしめてくれた。

「いいえ、私たちがもっとフィオレッタさんの悲しみを理解していればよかったんです。至らなくてごめんなさい」

 本当に優しい人だった。


 マリナもまた抱きしめてくれた。

「お姉さま、これから本当に姉妹として仲良くしてください。お姉さまの帰りをまってます」


 そう言ってくれたのだ。

 今なら私も二人を受け入れることが出来る。


 私は二人に笑みを見せた。

「分かりました、お母さまもマリナも待っていてくださいね」


 そう言ってエイドリアン・シーモアを見た。

「エイドリアン、未踏の地への探索だから覚悟してね」


 エイドリアンは深く頷いた。

「もちろんでございます、フィオレッタさま」


 エイドリアンはウェールズ公爵家の騎士団長である。知能武力全てが一級である。しかも父の信頼度はほぼMaxを越えている。

 父の選択が私を大切に思っているからこそのことだと分かる。


 わかる。

 わかるけど。

 ただね~、前のことが大きすぎてやっぱり抵抗が全くないわけじゃない。

 でもそこは先のイフリートの時に私を守ろうとしてくれたことを思い出して記憶を上書きして乗り越えていくしかない。


 それに迷いの森の事は良く分かっているけれどホーリー家の領地である白き大地は正に未知の地なのだ。


 魔物がいるかもしれない。

 ホーリー家の屋敷が見つからず野宿の連続になるかもしれない。


 転移魔法があるけれど出来るだけ目的のホーリー家の屋敷には辿り着きたいのだ。そのためには有能な騎士が必要だった。


「今回の目的はホーリー家の屋敷を見つけてホーリー家の遺産である魔法書を全て手に入れることだわ。使うには私はまだまだ未熟だけれど陣の取得と発現はストックしていて損はないもの。エイドリアンに四の五の言っている場合じゃないわ」


 万が一、あのイフリートを顕現させてウェールズ公爵家の領地を破壊しようとした人がもっと強力な魔法を使ってきたときに対抗する手立てを持っていなければならない。


 ストックはその為のにも必須だった。


 私はエイドリアンを見つめた。

「行きましょう、エイドリアン」


 私は指先を上にあげるとそこに陣を発現させた。

 転移魔法陣である。


 そして、迷いの森へと旅立ったのである。

 迷いの森は泉も川も何もない緑の木々が茂るだけの場所であった。


 しかし、私と入れ替わりに……王都の使者がやってくることを私は知らなかったのだ。

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