第9話 王都からの使者
アルバート・ウェールズは突然の来訪者をウェールズ公爵家の応接室に招き入れて対面するように座っていた。
空に突然姿を見せた巨大なイフリート。
ともすればウェールズ公爵家領地の破壊かと思えたが本当はそれどころではなかったことに今気づいたのである。
「フィオレッタのこともあって迂闊だったな」
アルバート・ウェールズは目の前に座る王都からの使者を見て心で呟いた。
領地ではなく国全土だったのだと使者の来訪を受けて気付いたのである。
「イフリートの顕現については我が領地の上空からも見えておりました。我が領地が火の海になるのではないかと恐れましたが水の精霊オンディーヌが顕現して火の洗礼を受けなくて済んだのは幸いでした」
アルバート・ウェールズは冷静にそう告げた。
その水の精霊オンディーヌを顕現させたのは実の娘のフィオレッタであることは本人とエイドリアン・シーモアの報告で知っている。
だがそれを正直に言う訳にはいかなかった。
つまりそこは曖昧にお茶を濁した形で応答したのである。
その精霊召喚の魔法と防御魔法が巨大な力だとアルバート・ウェールズには分かっていた。あのイフリートの炎の洗礼を受けていたら領地は一瞬で崩壊していただろう。
反対にそれをあっさりと食い止めたということは領地を一瞬で崩壊させる力を上回る力があるということである。
ウェールズ公爵地を守ってきたのだ。それくらいの判断は出来た。
ここは王都が何を考えているか静観しようと判断したのである。
王都の使者であるギルバート・ブラウンはスッとアルバート・ウェールズの心を探るように見た。
「そうですか、我々は二つの事を全ての領地へ行き王のご命令で調べることになっております。一つはイフリートを顕現させたものの探索です。あのイフリートの攻撃を受けていたら全土が火の海になっておりました。それは王に対する反逆ととれるということです。もし、隠し立てをしたとしたら……」
アルバート・ウェールズは頷いた。
「反逆罪と言うことですね」
そう答えて更に続けた。
「我々ウェールズ公爵家にはイフリートを顕現させたものはいません。ましてや我々の領地も炎に包まれるところでした。そんな愚かのことをするわけがありません。創造主たる伝説の魔導士さまに誓って」
ギルバート・ブラウンは冷静にアルバート・ウェールズを見つめ答えた。
「ウェールズ公爵のお言葉を王に持ち帰りましょう」
つまり疑っていないということであった。
ギルバート・ブラウンも各貴族の内情を知らずに子供のお使いのように来ているわけではない。ウェールズ公爵が信用できない人物ではないということは分かってきているのである。
しかし念には念をということであった。
ギルバート・ブラウンは更に言葉を続けた。
「また王はイフリートの火の洗礼を回避した水の精霊オンディーヌを顕現させた魔導士集団についても探されている。出来れば褒美と王都へ招き魔導士学校との交流を考えておられる。ウェールズ公爵家が魔導士集団を持たれているということはありませんか?」
アルバート・ウェールズはそれに関しては驚いて思わず声を零した。いや、本心から驚いたのだ。
「は? 魔導士集団ですか!? その様なものを持てる者が王族以外におられるのでしょうか?」
アルバート・ウェールズは真面目に悩みながら言葉を続けた。
「そもそも魔力を持つ者自体が一握りだけでございます。我が領地を考えても娘のフィオレッタだけで私も他の者も魔力を持ってはいません。王は各地からその力を持つ人間を搔き集めて魔導士学校をつくられた。つまり魔力を持つ者は全員魔導士学校に集まっていると思っておりました」
それは正直な話であった。
それ以上に何故集団? であった。
いやいや、娘と騎士団長の話を信じないわけではないが王が集団と言ってきたということは娘のフィオレッタが『あの水の精霊オンディーヌ』を顕現させたと思っていたが本当は何処かの集団が顕現させ、タイミング的に勘違いを起こしたのかもしれないと真剣に考えたのである。
所謂、娘のフィオレッタの魔法は小さく何処かの集団が作ったオンディーヌに飲み込まれたということではないのかと考えたのである。
アルバート・ウェールズの悩み方にギルバート・ブラウンは誤魔化すための芝居ではないと判断した。
「分かりました。その魔力を持っているお嬢さまに関してはご年齢は?」
アルバート・ウェールズは笑みを浮かべた。
「13歳です。魔導士学校は15歳ですからさ来年には入学させようと考えております。その折はぜひよろしくお願いいたします」
ギルバート・ブラウンは笑みを返した。
「是非、お待ちしております」
その後、ギルバート・ブラウンは公爵家の屋敷内などを視察し王都へと戻った。
その頃には他国も同じようにイフリートの攻撃を受けた情報が入っており、領土内というより国家間侵略と判明していた。
それを受けて各国の王たちの会議が開かれることになったのである。
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