第6話 動乱の幕開け

 精霊イフリートの姿は各地から見ることが出来た。

 王城は大騒ぎとなり国王アレクサンダー・ウィンザーはイフリートが腕を上げる姿に側で仕えていた宰相を見た。


「直ぐに魔導士長に国土を守るように指示を出すのだ!」


 宰相のチャーチル・スミスは一礼した。


「ただちに」


 王都の魔導士長であるハロルド・マルフェスも魔導士学校から外へと飛び出し息を飲み込んだ。


 精霊召喚だけでも高度魔法である。魔導士長である自分でも相性の良いノームくらいである。

 しかも魔力によって同じ精霊でも力と大きさが違う。


「あのような巨大な精霊を呼び出すにはどれだけの魔力を……恐らくは一人ではない」


 集団で魔力を陣に叩きこめば可能かもしれないがそれを行うと多くの魔導士は息切れを起こし下手をすれば死んでしまう場合もある。


 ざわざわと魔導士が学び舎から飛び出しざわめきが一帯を取り巻いた。

 ハロルドは彼らを見ると声を上げた。

「これから私が防御魔法の陣を描くそこに魔力を注入してもらいたい。王都くらいしか守れないが……それでも王族の方々は守れる」


 全員がそれに頷いた。

 その瞬間であった。


 巨大な輝く陣が頭上に広がり美しい女性の姿がイフリートを阻むように現れた。

 ハロルドは息を飲み込むとその姿を見つめた。


「まさか、水の精霊オンディーヌ」


 しかもほぼ同時に防御の陣が輝き自らの頭上も王城も全てを包み込むように光のバリアが広がったのである。


「ど、どういうことだ? 王都のこの国立魔導士学校以外にも魔導士の集団があるのか?」


 目の前の巨大な精霊にしても広大な大地を守るように広がるバリアにしても多くの魔導士の魔力が無ければ無理なものであった。


 イフリートが腕を振り下ろすと同時に火球が降り注いだもののオンディーヌが腕を広げ水面を広げてその火球を飲み込むとイフリートを抱きしめて締め壊してしまったのである。


 国王であるアレクサンダーもその隣で立っていた王子ウィリアム・ウィンザーもザーと降り注ぐ雨に目を見開いていた。


 アレクサンダーは宰相のチャーチルを見て安堵の息を吐き出した。

「魔導士長のハロルドを呼べ。恐らく気付いて守ってくれたのであろう。礼を言わねばな」


 チャーチルは深く頷いて王室の間を後にした。

 アレクサンダーは直ぐに青空に変わった空を見ながら目を細めた。


「だが、あのイフリートを顕現させた者は捕えねばならんな」


 しかし、ハロルドがアレクサンダーとウィリアムの前に姿を見せると更なる驚きとやらなければならないことが増えたのである。


 ハロルドは深く頭を下げて告げたのである。

「国王、あのオンディーヌと防御魔法は私どもではありません。恐らく臣下の中に極秘裏に魔導士団を作っている者がいるのではないでしょうか? かなりの力を持っていると思われます。今回は我が国の為でしたが下克上を考えれば」


 アレクサンダーは椅子に座り険しい表情を浮かべた。

「今回の事の礼を言わねばならぬが……その本当の真意も確かめねばならんな。チャーチル、直ぐに各地に騎士を送り出し調べるように」


 ……イフリートを顕現させた集団も、また、オンディーヌを顕現させた集団もだ……


 イフリートは各国に現れ幾つかの国は存亡の危機に陥れられたのである。

 大きく世界が動き出したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る