第6話 最古にして最悪の祓魔師
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海上都市の中心に聳える城――抗魔機関本部。
その最上階の一室。
「ワタル。上級の悪魔が東京に出現した。直ちに出動して欲しい」
ゴミが散乱している部屋に、スキンヘッドの男――ゴドウがズカズカと入る。
「――上級? そんな相手、メイにやらせればいいだろ。暇だろうしさぁ」
此処は茶髪の男――ワタルの私室。彼はデスクの席に着き、キーボードをカタカタと鳴らしてレスバしていた。
「メイ隊長は現在福岡に出ているんだ……。〈十二天将〉の情報を僅かだが掴んだらしい……」
ワタルやメイの過去を知る故に、ゴドウは言い淀む。
「…………。〈
レスバの手が止まる。大きく溜息を吐き、ワタルは最悪の祓魔師――
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災害級悪魔の集団〈十二天将〉を創設した男――右京善次郎。
彼は最古の祓魔師。まだアメリカに戦争で負ける以前、悪魔が妖と呼ばれ、祓魔師が陰陽師と呼ばれていた平安の世で――彼は産まれた。
十二天将自体は世間でも有名だが、右京善次郎を知る者は少ない。
最古にして、最悪の祓魔師。彼は表舞台に殆ど出てこないまま、社会を何度も混乱の渦に陥れた。
大きな事件の裏には必ず彼がいる。
そう思わせるほど、彼は数多の事件に関与している。
ワタルの妹――ミサキの死。この件の裏でも、右京善次郎が糸を引いていた。
現代最強と名高い祓魔師のワタルでさえ、彼は止められないと
強いだけでは隠れた敵を倒せない。戦う気がなく、姿すら見せない相手に、ワタルは何もできないと諦めてしまった。
下手に刺激すれば仲間に被害が及ぶ。実際、ミサキの死はワタルが原因だ。ワタルが力に自惚れ、万能感に溢れていた若き時代。彼は――右京善次郎に近づき過ぎた。
その結果が、妹の死だ。
取り返しが付かない失敗。あってはならない迂闊な行動。もう、二度と、こんな事が起きない様に。
そう目を逸らし、ワタルは十二天将を追う気はなかった。
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「え、えーと、まぁ、はい。姉と同じ学校の人ですか……?」
駆け寄ってきたメイに、黒髪の少年――シンジは戸惑っていた。メイから感じるのは、明らかに災害級の悪魔の気配。
だがかなり友好的というか、敵対心を感じない。
「ぼ、僕が学生に見えちゃうかぁ~。そっかぁ、良い子だねぇ、シンジ君は」
悪魔は基本的に不老だ。老けないのは当たり前だが、それでも若者扱いされるのが嬉しいのだろう。メイは満面の笑みを浮かべている。
「あからさまに喜ぶな、オバサン」
追いついたチエが少し後ろから突っ込む。
「ていうか……、君……、この顔テレビで観た事ないの? このちんちくりん、結構有名なのに」
チエは素直に驚いたという様子。贔屓目なしに、彼女から見てもメイは知らない事が信じられないというレベルで有名だった。
「テレビは殆ど観ないんですよね……。えっと、やっぱり人気の女優さんだったりします……? 凄く可愛いくて、綺麗というか……」
首を傾げ、シンジは腕を組む。本当に誰だという感じだった。アイドルや女優など芸能人はどうせビッチだからと、彼は基本興味を持たない。
シンジが偶にテレビを観るとすれば、社会問題系の番組くらい。メイを見かける事は殆どないので、記憶に残っていなかった。
「…………」
顔をチエに向けるメイ。その表情には自信と喜びが漲っていた。
「やめろ、そのドヤ顔、腹立つから」
殴ってやろうかと、チエは拳をギチギチに固める。
「僕は久瑠宮メイって言うんだけど、聞いた事ない? 日本の抗魔機関には悪魔がいるって話」
抗魔機関の手帳を見せ、メイは自分の顔を指す。
彼女の後ろからチエは会話を聞きつつ、少し納得していた。
十数年前、悪魔化したばかりのメイは一年以上テレビでは叩かれ続けていたが、シンジの歳であれば物心が付いて間もない時期。
確かに顔を知らない人もいるかも知れない。そう考えると時間が経つのは一瞬だなと、チエは静かに煙草を吸う。
「…………ッ。そういえば、そんな話聞いた様な……」
顔は見た事がなかったが、話くらいは聞いた事はある。久瑠宮メイ。昔、祓魔師でありながら悪魔化して大炎上していた人物だ。
「君のお姉ちゃんとはそれなりに仲が良くて、偶に会っては話すんだよ。それで今日もさっきまで話してたんだけど、興味深い話を聞いてね」
メイはさっそく本題を切り出そうとし、「君は聞いていた話通り、とんでもない才能を持ってるね。どうかな? 君も抗魔機関に――――」と、言い掛けた時だった。
「「――――ッ!」」
光と共に何かが三人の目の前で爆発した。
規模は十数メートルにも及ぶ、大きな爆発。直前で逃れたメイ達は数メートル先で段々と小さくなる炎を見つめていた。
「――何を呑気に話し込んでいる。お前ら、用があるんだろう?」
炎を片手で振り払い、オウガイが不敵な笑みを浮かべ、「〈十二天将〉が一人――このオウガイに」と続けた。
「――〈十二天将〉……!」
目を見開き、シンジを抱き抱えながらチエは驚く。
対しメイは「…………ッ」静かに怒りの炎を燃やし、目から光が消え――そして瞳が薄紫色に変化する。全身に魔証が浮かび上がり、魔力が飛躍的に上昇した。
彼女は何も言わず衣嚢から取り出した霊符を握り潰し、剣へと変える。
「――来い」
向けられる純粋な殺意を気にも留めず、オウガイは笑みを崩さなかった。
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