第5話 狙われちゃうな~♪


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「シンジ君は処女が好きらしいからねぇ~。やばいなぁ。僕、狙われちゃうな~、絶対」



 夕暮れ時。橙色の光が差す中、街を歩き両手で頬を抑えながら照れている様子のメイ。



「……処女好きな男とか、気色悪いくない? だって自分に自信がない男が、処女を好きになるってだけでしょ? 他の男と比べられるのが怖いっての、流石にダサすぎでしょ」




 今日は目立ちたくないので、チエは抗魔機関を象徴するコートは来ていない。普通にセーターとロングスカートを着用し、少し肌寒い秋らしい服装をしていた。



「…………? 多分だけど、男が処女を好きなのは本能であって、別に他人と比べられるとか考えてすらないんじゃないかな?」




 メイはチエに比べて、服装は殆ど変わりない。いつものブラウスに短パン。最近は好んで白いニーソを身に付けている。



「アンタみたいな恋愛経験皆無の女に男の何が分かんのよ。それに、アンタを好きな男なんて非モテブサイク男だらけだから。ホントにイケてる男は、処女なんてどうでもいいって言うからね? アンタのファンが特殊なんだから、それを基準にしない事ね」




 男運の悪いチエはかなり偏見が強い。あるあるだが、男を分かった気になって上から語る女ほど、男の価値観を全く理解できていない。彼女は、その典型だった。




「えっと……。もしかしてチエちゃんは、初めての時……、彼氏に処女を喜ばれなかったの? どうでもいいって彼氏さんに思われてたって事? な、何か、可哀想……」



 プルプルと涙目で震えるメイ。チエの顔を横から覗き見て、「そんなのあんまりだよね……」と、哀れんでいた。




「…………」



 顔の血管が浮き出る程にぶち切れているチエは、無言で足を止める。




「えっとね? 僕も別に全ての処女に価値があるとは言ってないよ。言わなくても分かるとは思うけど……、一応言うね……? 価値があるのは、僕みたいな可愛い女の処女だけだよ? チエちゃんはちょっとブサ――いだだだ!」




 メイはチエに両頬を引っ張られ、痛みで呻く。「て、手加減! 手加減求むッ!」普通に魔力を込めて握られているので、激痛が走っているのだろう。涙をポロポロ溢し、引き剥がそうと抵抗していた。




「一線超える悪口禁止……! 言いたい事は分かる! でも絶対他に言い方あった! 明らかに私を傷つける言い方をわざとしてたでしょ!」



 溜息を吐き、手を離すチエ。「その煽り癖治しなさいよ、全く……」と、背を向け不貞腐れた様に歩き始めた。



「…………。でも、アンタなら篭絡できるんじゃない? そのシンジって子。非モテ男子ないんでしょ? だったら割と簡単じゃない? アンタってほら、非モテオタクから好かれそうな見た目だし」



 チエは煙草を咥え、マッチを取り出し火を付けた。そして大きく吸って煙を出し、隣を歩くメイに視線を向ける。




 何とも男っぽい態度で様になっている。確かにチエの顔はあまり整っていない。目も細くクマも酷い。ボサボサの青髪もみっともない。だが、一定の需要がありそうなほど格好いい系の女だ。




 身長も170センチ近くあり、メイより30センチ近く高い。好きな男はそれなりにいそうではある。



「いやいや、僕、誰にでもモテるんだけど……。特定の層にしか受けないとか、それブスの発想だからね? 止めな? 僕以外に言ったら恥かくよ?」




 頬から汗を流し、引き気味にメイは忠告する。



「童顔。低身長。優しそうな雰囲気。処女。こういう要素って、何となくキモオタが好きそうだよねって話してんのよ」



 ビシッと人差し指を、チエはメイの顔に向ける。



「え? えぇ~? だとしたらモテる男って、老け顔で高身長で体がゴツくて気が強くて攻撃的なビッチが好きって事ぉ~? 何か趣味悪くな~い? 非モテ男子の方が、女の趣味が絶対いいよぉ! ホントにぃ!」




 メイは「はわわ……。男はモテるとゴリラ好きになるんだねぇ」とガタガタ震え始める。



「……反論の仕方うっぜぇ~!」



 空を仰ぎ見て、煙草の煙を噴射するチエ。だが、少し呆れつつ楽しそうだった。メイの口が達者なのはいつもの事。




 もう慣れてしまったなこういうノリもと、チエは肩を竦める。



 そしてふと疑問が浮かぶ。足を止め「――ていうか、アンタみたいな三十路過ぎた女の処女って、まだ価値あんの?」悪意なくチエは質問した。




「――年齢の事は言うなや……」



 特大の精神的ダメージが入り、メイはブチ切れていた。さっきまでの可愛い子ぶった態度は急変し、素が出てしまっている。




 目から光が消え、真顔である。声も低くツッコミもやたら早い。本当に年齢は気にしているらしい。




「言っとくけど、処女はワインじゃないからね? そのきったねぇコルク、そろそろ開けて清掃してもらいな?」



 煙草を前に投げ、足で踏む。そして二本目を取り出して、咥えながらチエは喋る。




「処女膜をコルクって言うのやめろや! マジで良い男が出て来るまで大事に熟成させてんだよ、こっちは!」




 メイは下腹部を擦りながら反論する。どうやら彼女の膣は、今はまだ熟成中らしい。



「行き遅れを熟成とか言うのやめな? 何か余計に生々しい……。つーか、きたねぇ」



 顔を引き攣らせ、チエは煙草を吸う手を止めていた。そろそろ交差点であり、流石に人通りが多くなる。



「あれ、メイちゃんじゃね?」


「マジじゃん。本物だ、ずっげ~、可愛い~」


「でも何でこんな所に? まさか何かあったのか?」



 周囲の人々もメイの存在に気づき始める。




「この年まで処女をったんだ。そこらの相手に処女をあげる訳にはいかないよ。僕を絶対幸せにしてくれそうで、僕より強くて、年下のイケメンじゃないと……」



 周囲の目を気にする事なく会話を続けるメイ。「え? 処女なのか?」「マジで?」ワラワラと遠目から男達が反応する。




「た、高望み女、きちー……」



 再び煙草を吸い、空に煙を飛ばす。チエは顔には出さないが、しっかり気づいていた自分達に近づく男――シンジの気配に。



「高望みで結構! 中途半端な男とヤルくらいなら、一生ヤラない人生の方がマシだもんね! 僕は永遠の18歳の処女として……――って、あれ? もしかして……、あの子がシンジ君かな?」



 交差点の信号が切り替わるのを待っている時、隣に目を向けるメイ。その視線の数メートル先にシンジがいた。




「だろうね。でも何で此処に……――」



 顔がエイルにかなり似ているから、チエも彼がシンジだと判断している。とはいえ、どうやって声を掛けたものか。そう思っていた矢先だった。



「ねー! そこの君! もしかしてエイルちゃんの弟だったりする~?」



 大声を出し、駆け足で近寄るメイ。それに「――って、おい! いきなり話し掛けるな! 不審者ふしんしゃ!」と後ろからチエは吠える。



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