第3話 抗魔機関に勧誘します!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「私の弟、凄く可愛いでしょ? 少し出掛けるだけなのに、あんなに心配して……」
向かった高級料亭の個室。エイルはデレデレとした様子で、先程の出来事を話していた。
「何なのかな、そのきもっちわるい惚気話は……。しかもナチュラルに弟と子作りしてるしさぁ、話が無茶苦茶だよ……」
箸が止まり、ドン引きした様子のメイ。テーブルを挟んで反対の席に着いているエイルを呼び出した彼女は、とりあえず近況の話を聞いていた訳だが、まさか弟の子を出産しているとは思わなった。
メイは幼い頃のエイルを知っていて、定期的に連絡を取っては可愛がっていたので、少々複雑な話である。
だが日頃メイは男性向け同人誌を読み漁っている所為か、感覚が妙にバグっている。近親相姦に極端な
「弟が童貞を拗らせていたら、姉が筆おろしするのは常識でしょ?」
頬を掻き、照れ隠しで目を逸らしてエイルは声を小さく反論する。
「んな訳あるかい! そんな常識聞いた事ないよ!」
流石に突っ込むメイ、何だそのエロ漫画の世界の常識はと。
「メイって確か台湾出身だったでしょ? だから分からないのよ……、こういう日本の闇が……」
本当に怖い国だよねと、深刻そうな顔で頷きながらエイルは腕を組む。
「あのさ、僕は台湾より日本で過ごした期間の方が長いからね? 殆ど日本人だよ。というか日本に来た事ない台湾人ですら、君の言っている事が適当だって分かるからね?」
外国人呼ばわりされるには、あまりに日本に染まり過ぎているメイ。流石に騙されないとぞと呆れた様子で、肩を竦めた。
「……ていうか、冗談はともかく、今日はどうしたのよ。結構唐突じゃない?」
箸を取り食事を始める。連絡を受けてから疑問だった事をエイルは口にした。先程の腑抜けた顔ではなく、真剣な表情だった。
色々と察しているのだろう、メイが何か事情を抱えている事を。
「…………。色々と立て込んでいて、というか、危険な仕事をこれからする事になってね……。死んじゃうかも知れないから、一応挨拶しておこうかなって思ったんだよ」
死ぬ前に話しておきたい。というか、これからの抗魔機関を託したい。そう思ってメイはエイルに会いに来た。
自信過剰ではなく、メイが死ねば抗魔機関は大きく戦力を落とす。だけどエイルさえ居れば戦力の穴埋めが十分に可能なはずだと、彼女は考えていた。
「…………」
何も言わず驚き、深刻な表情を浮かべるエイル。
「今回が最後の勧誘だよ。僕が死んだらでいい。抗魔機関に入ってくれないかな?」
今まで何度も勧誘した事はある。でも初めてかも知れないメイが真剣な様子で、エイルを抗魔機関に勧誘するのは。
「……両親を亡くしてから、随分とアンタに世話になったわ。だから恩は返したいとは考えてる。でも私は個人的に気が進まない」
たとえ真剣に頼まれたって、これだけは変わらない。エイルは抗魔機関に属していた両親を幼い頃に失っている。
両親が
それなりに贅沢な暮らしはできていたが、エイルは両親の失った寂しさを知っている。エイルの中では結論が出てしまっていた、死ぬリスクを抱えてまで人助けする価値なんてないと。
勿論、他人の命を軽視している訳ではない。ただ家族の幸せを第一に考えるのが、人の在り方なんじゃないかと、彼女は考えているのだ。
「そっか……」
エイルの気持ちは察するに余りあると、メイは目を伏せた。
才能ある者は全員、命懸けで人助けしたい訳ではない。そもそも抗魔機関の職務は、割に合わない。
魔力さえあれば金を稼ぐなんて簡単だ。色んな道があり、その殆どが好待遇。それに比べて抗魔機関の仕事は、命懸けというリスクの割に給料が高くない。
得られるのは名声。後は、犯罪者が喜ぶ免罪符くらいのもの。エイルがそのどちらも興味はないだろう。
名声を得るも何も、彼女は才能に溢れ、整った顔立ちだ。幾らでも名声を得るチャンスなんて転がっている。
加えてエイルは品行方正で、犯罪に手を染めようとは思わないはずだ。免罪符なんて一生必要ない特権だろう。
それに抗魔機関に属する事は、犯罪や悪魔に敵対を意味する。つまり恨みを買い、家族に被害が及ぶ危険性も孕んでいるという事。
何も差し出せる物がない以上は、もう言える事はない。メイは深く溜息を吐き、自分が死んだ時の穴埋めを新たに考える事とした。
「でも、一つ可能性があるとすれば――」
エイルが口を開く。
「…………ッ」
顔を上げ、言葉の続きに興味を持つメイ。何か条件を呑めば、エイルが抗魔機関に属してくれるのではないかと期待してしまう。
「弟が抗魔機関に入れば、私も一緒に入る。だからアンタが説得するべき相手は私ではなくシンジって事」
無駄に高そうな皿。そこに綺麗に添えられた刺身を箸でつまみ、醬油に付けてエイルが上品に食べ始めた。
淡々と何事もない様な様子。それを見ているメイは少し反応が遅れ、「…………え? シンジ君には直接会った事ないけど、祓魔師の才能があったりするの?」驚いた様子で、首をコテンと傾げていた。
「……ポテンシャルは私と同程度くらい、だと思う」
悪魔の力を抑え込んだ状態でも、それくらいの力は引き出せていた。もしかすると自分より強いかも知れないと、エイルは刺身を食べながら思う。
「――――ッ」
絶句。現代最強のワタルに近い潜在能力が二人もいる事に、メイは激しく動揺した。確かに兄妹や姉弟で才能が
「それは、流石に放っておけない話だね……。因みにシンジ君は抗魔機関に多少興味はあるのかな?」
少し声が震え、オドオドとした様子でメイは尋ねた。弟さえ引き込めば、姉まで手に入るのは美味し過ぎる話だ。
一気に日本の抗魔機関は戦力を増強できる。これまで以上に安全に悪魔を討伐できるだろうし、犯罪の抑止にも繋がるはずだ。
何としてもシンジを抗魔機関に迎え入れなけれなならないと、メイの内で使命感に火が付いた。
「……私と同じ。抗魔機関には興味なし。でも説得はメイなら難しくないと思う」
箸を止め、少し苦笑してエイルはメイと目を合わせた。
「え? えぇ!? 本当に!?」
少し身を乗り出し、喜ぶメイ。だが――。
「あの子――処女が好きだから」
エイルの考える根拠は、あまりにもしょうもない理由だった。「定期的に体を好きにさせてあげたら、それなりに言う事聞くと思うわ。あの子、単純だから」と自信あり気に箸の先をメイに向け、彼女は続けた。
「…………へ?」
普通なら、性行為程度の事では大きな戦力を手に入れられない。これが理屈上は破格の好条件なのは、メイだって理解はしていた。
ただ彼女は見た目こそ抜群に若いが、実年齢的にはババァである。
この年まで処女を拗らせた彼女にとって、好きでもない男に体を
――――――――
【★】してくれると嬉しいです!
モチベ上がります!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます