第25話 魔王軍の今。

25話 魔王軍の今。


王国との戦争は十五年を迎えていた。

かつては魔王軍の軍勢が王国国土の半分近くを制圧した。しかし長き戦いの中で、戦力は削がれ、統制も緩み、各四天王は独自に軍を動かす状況にあった。


紫骸骨のグランドス、冥界の門番アリアン――かつて恐れられた四天王たちは、王国軍と勇者の前に次々と討たれた。

残されたのは、ほころびた指揮系統の魔王軍のみ。

だが、統制が失われても、魔王軍の戦力が完全に消えたわけではない。

それぞれが拠点を守り、細々と戦線を維持していた。


我が、魔王様は偉大だ。魔王様は忌まわしき王国の半分を支配したが


今や山に囲まれたこの土地だけに… 


こんなことになったのは、紫魔骸骨グランドス、冥界の番人アリアン。奴ら戦闘派は

独自で軍や兵を募り、愚かにも魔王様の指示を聞かない。


「我らはもう、無益な戦に意味は見いだせぬ。」

穏健派の将兵が呟く。

「だが戦闘派は違う。残された領土を放棄するわけにはいかぬ――墜物め。」


玉座の間で、魔王は静かに座していた。

魔王の瞳に映るのは、戦場の混乱ではなく、次の一手への思案であった。


「魔王様、準備は整いました。これにて戦争は終結するでしょう。」

跪いたのはヨシカゲ。最後の四天王であり、魔王の後継者。

彼の声は冷徹で、しかしどこか頼もしい響きを帯びていた。


「……頼んだぞ、ヨシカゲ。そなたは我が後継者である。」

魔王は静かに言葉を紡ぐ。


「――ありがたき言葉。」

ヨシカゲの口元に微かな笑みが浮かぶ。

それは戦況に一片の迷いもなく、確実な未来を見据えた瞳であった。



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魔王軍の現状


長年の戦いによって、魔王軍は分裂していた。

戦闘派は、指揮系統を無視して自分の領地で兵を統率する。

穏健派は、戦争を無意味と見なし、領地を維持することに努める。

この混沌こそが、十五年の戦争の疲弊を物語っていた。


戦場の最前線では、魔兵たちの疲弊がひしひしと伝わる。

拠点の物資は限られ、魔兵も不足気味。

士気の低下は、単なる戦術の問題ではなく、長期戦の心理的負担を象徴していた。


魔王軍の拠点、ミヤノザキ――かつて戦略的要衝だったこの土地も、今では僅かに占領を保つだけの領土になっていた。

周囲を山に囲まれ、容易に補給線が断たれるため、戦線を拡張することは困難を極める。

そのため、魔王軍の領地は徐々に縮小し、王国側の奪還は容易ではないが、停滞もまた現実だった。



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ヨシカゲの策略


玉座の間に戻るヨシカゲ。

「王国に対する最後の一手……」

彼は静かに手を組み、机上の地図を指先でなぞる。


「停戦都市、キャッスルリスター……ここを制圧すれば、戦争は形を変える。」

ヨシカゲの目には、占領地に潜む平和都市の意味が鮮明に映る。

ここを押さえれば、王国軍の攻勢を牽制できるだけでなく、魔王軍の存在を国内外に示す象徴にもなる。


しかし、それは同時に危険を伴う行動でもある。

街は停戦の象徴であり、両軍の監視が行き届いている。

小さな失敗が、戦争全体に波紋を広げる。

だがヨシカゲは迷わなかった。

「これが我が計画……我が望む未来の礎となる。」



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魔王軍内部の空気


拠点内の兵たちは、静かに動く。

戦闘派の指揮官は苛烈な命令を下し、穏健派は慎重に補給と監視を行う。

兵士の間には暗黙の緊張が走る。

「また戦を仕掛けるのか……」

「勝てる見込みはあるのか?」

しかし誰も口には出さない。

それでも戦争は続き、全員が生き残るための判断を迫られていた。


拠点の監視塔からは、遠くにキャッスルリスターが望める。

街の城壁の白と石壁の美しさは、占領者にとっても圧倒されるものだった。

ヨシカゲは望遠鏡越しに街を見据え、軍勢の配置を確認する。


「全ては計画通り……だ。」


だがその視線の奥には、まだ見ぬ敵の影があった。



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キャッスルリスター


平和都市としてのキャッスルリスターは、表向きは停戦都市であるが、実際には魔王軍が滞在しており、王国の視線は届かない。

魔王軍側の兵士にとっては、唯一の平穏な日常であり、監視と警戒が共存する不思議な街でもある。


街の城壁には警戒兵が配置され、異常を感知すれば即座に報告が行く。

その一方で、民衆は生活を続け、戦争の影響を最小限に抑えようとしていた。

ヨシカゲはその街の象徴的存在を利用し、王国への抑止力とするつもりであった。



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一方、遠方よりアルトの影が見える。

英雄として知られるその姿は、静かに城壁を見据え、奪還の準備を進めていた。

戦える力を持ちながらも、行動を控えているのは、街の平和を維持するため。

その決意は、王国軍内部でも知る者は少ない。


「……ここを奪還することは、簡単ではない。」

アルトは心中で呟き、遠くの戦況を見つめる。


魔王軍の占領地と、停戦都市の微妙な均衡。

これを崩せば、戦争は再び激化する。

しかし彼には、避けては通れぬ任務が待っていた。


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