第17話 正教会編ep1 エンリシャス天府の長旅


17話 エンリシャス天府の長旅


俺は今日も、送迎士としての仕事に没頭していたはずだった。しかし、どうしても頭から離れない言葉がある。あの牧師、マルセロが口にしたことだ。正教会と悪魔が繋がっている…?あの狂信的な言葉が、どうにも信じられない。しかし無視するわけにもいかない。


仕事に集中しようと努めても、心のどこかで気になってしまう日々。初めて、マリスさんに相談した。

「マリスさん…ちょっと、行きたい場所があるのですが」

「アダ君から指名で行きたい場所があるなんて、珍しいですね」

マリスさんはにっこりと笑う。だが、その笑顔には安心感がある。

「いいですよ。エンリシャス天府に送迎士として行きましょう。超天派の視察も兼ねて、魔英派にはダンジョン報告書を提出してください」


エンリシャス天府。

正教会の本協会と、魔英派ギルドの本部が並び立つ都市。宗教と紳士が共存する、政治・魔術の中心地である。超天派ギルドもあるが、やはり本部のある土地なので、派遣されるギルド員は少ない。


夜行の魔馬車に乗り込む。

「皆様、この魔馬車はエンリシャス天府行きです。約10時間の長旅となります。夜19時頃には照明を消し、快適な旅を提供いたします」

乗客は、冒険者や商人、学者など少人数。照明が消えるまで、わずかな会話が続く。


俺はいつものように魔馬車の操作席に座り、視界に入る道路を確認しながら、慎重に運転する。街灯の光が途切れるたび、闇が濃くなる。夜行の時間は長いが、事故は絶対に起こせない。全神経を集中させる。


道中、街の灯りが次第に遠くなり、深い森を抜ける。

森は冷たい風と共に、夜の匂いを運ぶ。枝葉が車体に触れ、微かな揺れが魔馬車を走らせる。

「…大丈夫かな、この街」

小さく呟く。心配は、エンリシャス天府そのものではなく、都市の正教会と魔英派の内部で何が起こっているのかだ。

だが、考えても答えは出ない。目の前の仕事を完璧にこなすしかない。


魔馬車は揺れながら山道を進む。途中、山岳地帯の夜風が車体を冷たく包む。乗客は寝ている。小さな子どももいる。安全は絶対だ。俺は天転契約の感覚を研ぎ澄まし、車体の安定を保つ。

「風の乱れ、路面の湿り気…全て問題なし」

小声で確認しながら、夜行の長時間運行を淡々とこなす。


途中で休憩を取ることもなく、魔馬車は森を抜け、丘陵地帯に差し掛かる。遠くに都市の灯りが見え始める。

「エンリシャス天府が近い」

少しだけ、胸が高鳴る。長旅は体力を消耗するが、都市の匂いが戻ってくると、心も少し弾む。


夜半を過ぎ、乗客は全員深い眠りについている。俺も操作席で微睡むが、眠りに落ちるわけにはいかない。車体の振動や風の乱れに、常に意識を張る。万一の事故は許されない。

森を抜けるたび、遠くの街灯や湖面の光が映り込む。美しい景色だ。しかし、油断は禁物だ。俺の役目は、無事に乗客を都市へ届けること。


夜が明ける前、魔馬車はエンリシャス天府の市街地へ近づく。街灯の数は少ないが、都市としての秩序は保たれている。正教会の大聖堂が遠くに見える。塔は月光に照らされ、神聖な輝きを放つ。


「もうすぐ到着です」

低く声をかけ、乗客を起こさないように操作を続ける。都市の中心部に近づくにつれ、道路は整備され、車体の揺れも減る。天転契約を駆使して、魔馬車の安定は完璧だ。


ついに、エンリシャス天府の主要停留所に到着する。

「皆様、おはようございます。まもなく、エンリシャス天府市街に到着いたします」

乗客たちは目を覚まし、まだ眠そうにする者もいるが、無事に到着した安堵の表情を浮かべる。

「ありがとうございました」

小さな声で感謝を告げる冒険者たち。俺は軽く頷き、乗客を降ろす。事故もなく、全員無事だ。


そのまま、魔馬車を駐車場に停め、次の任務に備える。10時間の夜行は無事終了した。都市の街並みを見ながら、俺は心の中で決意を固める。

「…ここで何が起こっているのか、確かめなければ」

エンリシャス天府の正教会と魔英派の動き、内部の異変。目に見える秩序の裏で、どんな暗躍があるのか。


俺は送迎士としての仕事を全うしつつ、心の中では、都市の秘密に踏み込む準備を始めていた。

長い夜行を終え、都市の空気を吸い込むと、やはり緊張が解ける。しかし、油断はできない。ここで何か起これば、再び街が混乱する。


アダは、街の中心部へ足を進める。

「正教会本部、そして魔英派本部…確認する」

目的地は明確だ。情報収集と、異常の有無の確認。都市内での小規模トラブルには、送迎士として介入する。

天転契約の感覚を鋭く保ちつつ、都市の安全と秩序を守る。それが、俺の仕事だ。


都市の石畳を歩きながら、遠くに見える大聖堂の影を確認する。

「ここが、正教会か…」

背筋に小さな緊張を感じる。都市の平穏を保つのは、送迎士としての任務に加え、この場所の異変を見逃さないことにかかっている。


歩きながら、俺は思う。

「もし、何かが起こるのなら…俺が先に立たなければ」

長い夜行と運転で疲れた体も、心の覚悟が力を与える。アダは今日、この都市で起こる異変に立ち向かう準備を整えた。


夜行送迎は終了し、都市への到着も完了した。

しかし、これから始まる都市での異変調査と、正教会・魔英派の内部の動きは、これまでの送迎任務とは次元の異なる戦いになる。


アダは息を整え、深呼吸をひとつ。

「さあ、始めるか…」

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