第10話 英雄と送迎士の狩り
10話 英雄と送迎士の狩り
朝4時。薄明の空の下、街はまだ眠っている。冷たい風が吹き抜ける街道を、英雄アルトと送迎士アダは静かに進んでいた。
「……私の力を貸そう」
アダの声に、アルトは思わず立ち止まる。
「え?」
「この力は女神様との契約の元で成り立っている。つまり、お前も契約をすれば、その力を手にできる」
アルトの目が一瞬見開かれる。
「いいのか? 俺はその力を得るために、努力も才能も何もないのに……」
アダは小さく笑みを浮かべた。
「力を得るには才能も努力も関係ない。ただし、一つ目まで守ってほしいことがある。それは――私の指示を最優先することだ」
アルトは少し戸惑いながらも頷いた。
「わかった……信じる」
二人は街道の脇に立つ魔物の群れに目を向ける。ヒカサク王国行きの道中は、まだ未浄化の区域がいくつも残っている。アルトにとって、これは初めての「アダと共に戦う掃除(狩り)」だ。
「今日は私も一人ではないんだな……」
心の中でそう思う。アダがいつも一人で掃除していた時の孤独と責任感を、アルトは少しだけ想像していた。
「行くぞ」
アダの合図で、二人は魔物に向かって進む。夜の残り香が漂う草むらには、ゴブリンやスケルトン、黒い霧のような小型魔物たちが潜んでいる。
「まずは周囲の掃除からだ」
アダは天転契約〜天扉無限解放〜[降臨式]を発動する。空に無数の扉が開き、白い羽根の天使が舞い降りる。天界の光が道を照らし、魔物たちは怯え、逃げ惑う。
アルトも力を集中させ、天転契約〜天女神視付与〜を発動。周囲の魔物の位置や能力を把握する。
「ふむ……これなら効率よく掃除できるな」
アダは軽く微笑む。いつもは孤独な戦いだが、アルトが共に戦っていることで、戦いのリズムが楽しく感じられる。
「アルト、後ろの連中に注意」
「はい!」
アルトは剣を構え、魔物の群れに斬撃を繰り出す。力強く振るう一振りで、複数のゴブリンを同時に討ち取る。だが、アダのような圧倒的な力ではない。あくまでアルトの技はまだ“習熟中”だ。
「いいぞ、アルト。その調子だ」
アダの声が背中を押す。
草むらから飛び出したスケルトンがアルトに襲いかかる。アルトは反射的に後退しつつ剣で迎撃する。
「うおっ!」
「落ち着け、相手の動きを見ろ」
アダは少し離れた場所から指示を出す。同時に、天界の扉から浄化ビームを放つ。光がスケルトンを貫き、粉々に消滅する。アルトは驚きと同時に、戦いのリズムを掴み始める。
「すごい……一人で掃除するのと全然違う……」
アルトの瞳に輝きが宿る。戦闘の楽しさ、連携の面白さ――初めて味わう感覚だった。
「次はあの黒い霧の奴らだ」
アダが指を指す先には、闇の塊のような小型魔物が数体、ひそやかに潜んでいる。
「俺、やってみる!」
アルトは意を決して前に出る。魔物の中心を狙って斬撃を繰り出すが、いくつかはうまく当たらず逃げていく。
「構わん。まずは数を減らすことだ」
アダは微笑むと、再び天扉を召喚し、無数の扉から天使たちが降臨する。羽根の光が魔物たちを圧倒し、残っていた霧状の魔物も次々に浄化される。
「やった……!全部倒せた?」
アルトは息を整えながら周囲を見回す。
「ほぼ完璧だ。だが油断はするな。まだ道の先には敵が潜んでいる」
アダは言い、天転契約〜天与浄化魂〜を発動。天魂がアルトの武器に宿り、剣を強化する。アルトの剣から光が放たれ、彼自身の力も増幅される。
「これなら……俺でも、もっと戦える!」
アルトは自信と高揚感を覚える。戦いの中で、少しずつ自分の力を実感していく。
「いいぞ、アルト。その調子で進め」
アダの声が再び背中を押す。今度は二人で連携し、道の奥に潜む群れに向かう。アルトはアダの動きを見ながら、自らの剣術と天魂の力を合わせ、魔物を次々と討ち取る。
「ふう……やっぱり、戦いは一人でやるより楽しいな」
アダは微笑む。普段は孤独で静かな掃除作業も、アルトと一緒なら別の楽しさがある。仲間との連携、戦いのリズム、達成感――それらがアダの心を少しだけ軽くしていた。
空が少し明るくなり、朝日が差し込む頃、二人は道の中ほどに立ち止まる。
「アルト……これからも、この力を使うときは、私と共に行動することだ」
アダは静かに告げる。
「うん、わかった……アダさん。俺、頑張る!」
アルトの声には、覚悟と期待が混じる。
二人の前に、まだ浄化されていない道が広がる。しかし、もはやアルトはただの初心者勇者ではない。アダと共に戦うことで、新たな力を得、戦う楽しさと責任を知ったのだ。
そして、道の先に潜む魔物たちは、既に二人の力に恐れを抱き、退散するしかなかった。
「さて……残りも片付けるか」
アダは剣を構え、天扉を召喚する。無数の扉が光を放ち、降臨する天使たちが周囲を浄化する。アルトも天魂をまとった剣で、勇敢に前へ進む。
「これなら……俺も、少しは戦力になるかもな……」
アルトの口元に小さく笑みが浮かぶ。
朝の薄光の中、英雄アルトと送迎士アダは、今日も道を清める。
それは単なる掃除ではなく、街を守る戦いであり、二人の絆を深める特別な時間でもあった。
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