第9話 英雄の影、送迎士の真実
9話 英雄の影、送迎士の真実
道角でぶつかり、アルトは息を切らして立ち止まった。
「あれ、あなた……運転手さんですよね?」
一瞬の沈黙のあと、落ち着いた声が返ってくる。
「……はい。私はアダといいます」
アルトは目を丸くする。
「確かあなたは……英雄アルトでしたよね?」
その問いに、アダは淡々と首を振る。
「違います。私は英雄でもなんでもありません。四天王なんて倒していない。あんな技も知らない――」
しかし、アルトの胸には確かな記憶があった。
あの時――街を襲った魔王軍、四天王グランドスの圧倒的な力、そして俺自身の無力さ。
思い出したんだ。
「俺は……あの時、見たんだ!」
アルトは声を震わせ、必死に言葉を繋ぐ。
「お前が――アダ、お前が四天王を倒したんだ! 二撃で、軽々と! 俺は……俺はただ見ていただけなんだ! なぁ、何か言ってくれ!」
しかし、アダは黙り込み、そのまま宿舎へと歩き始める。
アルトは慌てて追う。
「おい、待ってくれ! 頼む、教えてくれよ! お前のせいで俺は英雄扱いされてるんだ! 俺は英雄でもなんでもないのに! なぁ……なんで喋らないんだよ……」
アダは足を止め、ふと後ろを振り返った。
「……わかった。部屋について来てくれ」
木の軋む音を立てながら二人は宿舎の中に入る。
外は夕暮れ、窓から差し込む光が、部屋の薄暗さを柔らかく照らす。
アルトは息を整え、目を見開いたままアダを見つめる。
「……本当に教えてくれるのか?」
アダはゆっくりと頷く。
「認めよう。確かに、私は四天王を倒した。しかし……ヤツが四天王だということは、正直知らなかった。そして、君がそこにいたことも……」
アルトは声にならない驚きを口元で抑える。
「え……つまり……お前が……」
アダは続ける。
「だが、君が英雄としてギルドに出てくれ――と願うなら、私は断る。私はこの仕事が好きだ。一人でできるし、私なりの目標もある。英雄として持ち上げられるのは性に合わん」
アルトは思わず声を荒げる。
「でも……確かに、勘違いを引き起こしたのはお前だろう? 俺は英雄として評価され、賞賛され、注目を浴びる――でもそれは、全部……お前のせいだ! それなのに、何も言わないなんて、俺はどうすれば……」
アダはアルトをじっと見つめ、ゆっくりと息を吐く。
「……確かに、勘違いを招いたのは私の責任だ。だから、少しだけ君に話をしておく」
アルトは深く息を吸い、覚悟を決めたように前を向く。
「……話せ。全部、聞きたい」
アダは部屋の中央に立ち、静かに話し始める。
「私があの戦いで使った力――天転契約、天扉無限解放[降臨式]は、もともと送迎士である私の備えだ。街を守るため、乗客や市民を守るために発動しただけだ。意図して英雄になろうとしたわけではない」
アルトはその言葉に耳を傾ける。頭の中であの戦いの光景が蘇る。
(いや……だが、あの圧倒的な力……あれを目の当たりにしたら、英雄扱いされるのも無理はない……)
アダは続ける。
「私は一人で行動することを好む。時間の管理、進行の確実性、それが私の信念だ。英雄として世間に名を轟かせることに、興味はない。しかし……それでも、誤解を放置していたのは事実だ。君が誤って英雄扱いされる原因を作ったのも、間接的には私のせいだ」
アルトは声を絞り出す。
「……じゃあ、どうすればいい? 俺は……俺は英雄として騒がれるのはもうたくさんだ。でも、お前が黙っている限り、誰も真実を知らない」
アダは肩を落とし、窓の外を見つめる。
「私の力は必要なときに必要な場所で使えばいい。英雄の名声を欲しいわけではない。だが……勘違いを生んだ以上、少しは釈明をしてもいいかもしれないな」
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