第8話 真の英雄
8話 真の英雄
時は約2時間前――
「はぁ〜、つかれたぁ〜…寝るかぁ」
冒険者たちは、今日の訓練や討伐の疲れを引きずりつつ、送迎車に乗り込む。
この魔馬車はバラス王国行き。間違える者はいないだろう。
照明を落とすと、冒険者たちは眠りにつき、車内には子守唄のような静けさが広がる。
ガタンと揺れる馬車は、道路を滑るように進む。魔物もいない。すべては計画通り。
「完璧だ…今日も時間管理は零…」
そう胸で呟き、俺――アダは後部座席の乗客たちをちらりと見渡す。全員、ぐっすり眠っている。
道路は順調に進む。あと少しで北門だ。
しかし――空気が変わった。
遠くから、低く響く雄叫び。鼻腔を突く、血の香り。
(なんだ…?)
俺は小声で天転契約〜天女神視付与〜を発動。
視界が上空へと広がり、魔王軍の襲撃が確認できた。四天王クラスの者たちの姿もある。
強者たちの戦いは熾烈を極め、都市に迫る勢いだ。
俺は時計を確認し、思う。
(遅れるわけにはいかない…)
天転契約〜天扉無限解放〜[降臨式]――
その瞬間、光が降り注ぎ、無数の天界の扉が空に開かれる。
扉から降り注ぐ光は戦場を包み込み、女神アリティウス神が姿を現す。
瞬く間に魔王軍のスケルトン兵たちは消滅し、四天王級の戦士も光に押され退く。
「よし、出発だ」
魔馬車は、そのまま通常運行を続け、予定通り北門に到着する。
「皆様、おはようございます。まもなくバラス王国市街に到着いたします」
任務完了。俺は肩の力を抜き、再び日常に戻る。
ギルドに戻ると、同僚たちが駆け寄ってくる。
「お前、大丈夫だった? ほんの少し前まで魔王軍が街に入ろうとしてたんだぞ!」
「大丈夫だ」と俺は答える。今日も仕事は完璧に終わった。
その夜、ギルド酒場では戦いを終えたSランクたちが集まり、襲撃後の祝勝パーティーが始まる。
ガラーンが笑いながらアルトをからかう。
「アルト!もっと食って飲めよ!ガハハハ!」
アルトは微笑むが、内心は重い。
(辛い…帰りたい…)
エンバースが声をかける。
「アルト君、疲れているな? あの技は相当消耗が激しいようだ」
アルトは戸惑いながら答える。
「あっ…そうなんです、だからもう…」
なんとかアルトはホテルへ戻ることになる。
道中、街の灯りを眺めながら彼の心は揺れる。
(あの技は…一体なんだったんだ? 俺の力…? いや、そんなはずは…)
思考が巡る中、足元から「バタ!」と衝撃が走る。
「えっ、あぁ…す、すみません、すみません…」
ぶつかった相手を見上げると――
「あ…運転手さんだ……」
瞬間、アルトの記憶が閃光のように蘇る。
――そうだ、あの四天王を倒したのは――
「こいつだ……この送迎士が!」
頭が真っ白になる。心臓が跳ねる。目の前にいる日常の顔が、戦場で光と共に敵を消滅させた英雄だったことに、アルトは愕然とする。
「え…!? いや、でも、どうして…」
言葉にならず、ただ息を呑む。
アダ――送迎士という平凡な顔の裏に潜む、真の力。
それを目の当たりにしたアルトの心には、驚きと畏怖、そして複雑な感情が渦巻く。
酒場で笑い、パーティーに興じる周囲のSランクたちも、今の戦いの真実を知れば、どれだけ驚くだろうか――
しかし、アルトの視線は、ただ一人の送迎士――アダに釘付けだった。
「これが……本当の英雄…」
アルトは唇を震わせながら呟く。
そして、今日もまた、平凡な日常に戻るように、街の灯りを眺めた。
しかし、彼の心には確かな印象が残る――
「この送迎士は、ただ者ではない」
戦いの記憶と、仕事の姿が交錯する。アルトは、自分の英雄譚が、実は誰かの力に支えられていたことを、痛感するのであった。
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