3 意識している

 いつもの通り普通を演じていたけど、俺……思わず望月の手を握ってしまったからさ。変だと思われたらどうしよう。距離感ができる前までは何気なく手を握ってたから「冷たい」って言葉に体が勝手に動いてしまった。


 あの時はそれが普通だったから……。


「あああ! 朝から何をしてるんだよぉ! 俺は……」


 ベッドでずっとそれを考えていた。


「うるせぇよ! 湊。さっさと学校行け!」

「あっ、うん。てか、姉ちゃんは早いね」

「あんたが遅いだけだよ」


 朝から冷たいな、うちの姉ちゃんは。

 大学生になる前にも冷たかったけど、大学生になってからもっと冷たくなったような気がする。多分、周りの男たちがしつこく声をかけるからだと思うけど、美人はいろいろ大変そう。


 まあ。でも、うちの姉ちゃん怖いからさ。

 ほとんどの男はすぐ諦めるし、いっか。


「あっ、そうだ。はなびちゃん来てる」

「そうか、うん? えっ? 望月さんが?」

「そうよ。じゃあ、先に行くから」

「ちょ、ちょっと! 姉ちゃん!」


 そのまま部屋を出る姉ちゃん、そして行き場を失った俺の手。

 お母さんは朝早く出勤するから、この家には今俺と望月だけってことか。

 どうすればいいんだ? 昨日のことを思い出してめっちゃ緊張している俺だった。


 その時、外からノックをする望月。


「ねえ、早く準備しないとご飯冷めちゃうよ?」

「あっ! うん!」


 そんなことより、望月がうちに来るのは一年ぶりだよな。

 なんでいきなりうちに来たんだろう。

 今まで全然来なかったのに、なんで高校生になってからいきなり普通の幼馴染に戻ったんだ?! よく分からない。


「ふぅ……」


 なぜか、取っ手を握って深呼吸をしている俺。

 なんでこんなに緊張しているんだろう。

 そのままドアを開けたらすぐ前に望月の顔がいた。


「うわぁ!!!!! び、びっくりしたぁ。な、な、なんだよ! なんでそんなところでじっとしているんだよぉ! 望月さん」

「えっ? ああ、すぐ出ないからちょっと心配になって」


 マジでびっくりして自分の胸に手のひらを当てた。

 ドキドキしている。

 ホラー映画かよ。


「やっぱり、来ない方がよかったのかな? ごめん……」

「いや! そんなことじゃなくて……。てか、さっきからどこ見てるんですか? 望月さん?」

「うん? えっ? ああ……、なんか青柳くんの部屋着は可愛いなと思ってね」


 その時、ゾッとした。何かをうっかりしていたような感じ。

 そして脚のところが涼しいなと思ったら、いつもの通りTシャツにパンツを履いている。ズボンはベッドの隣に落ちていた。


「……ご、ごめん!」

「あっ」


 すぐドアを閉じた。マジでバカかよ、俺は……。

 そういえば望月が来ないようになってから、普通にこんな格好でいるようになったよな。お母さんと姉ちゃんは俺より早く家を出るし、癖になってしまって望月が来るという可能性に全然対応しなかった。


 昨日は勝手に手を握って、今日は勝手にパンツを見せるなんて……。これ、ただのセクハラじゃねぇかよぉ。


「死にてぇ……」


 一方、外でじっとしているはなびの顔は真っ赤になっていた。

 そのまま固唾を飲む。


「エッチ……。急に暑くなった」


 ……


 いろいろあったけど、無事に登校をしている二人。

 てか、お母さんのお店に行く時もそうだったけど、俺たちあの時はどんな風に歩いていたんだろう。なんか今の状況がちょっと苦手だった。すぐそばにいるのは幼馴染なのに、どうしてこんなに不便なんだろうな。


 それに緊張してるし。


「あっ! ブレザー!」

「うん? ブレザー?」

「うん! ソファに置いてきちゃった! 居間で待ってたからね。持ってくるのうっかりしたぁ……」

「うちのソファ?」

「うん……」


 ここから戻るのはちょっと……、距離があるから無理だな。


「ううぅ……」


 てか、落ち込んでるし、どうすればいいんだろう。

 やっぱり、俺が行ってくるしかないのか。


「俺が行っ———」


 すると、すぐそばで俺の袖を掴む望月。なぜかじっと俺の方を見ていた。


「ど、どうした?」

「…………」


 いや、俺じゃなくて俺のブレザーを見ているのかな?


「これ、貸してあげようか?」

「いいの!? 青柳くんの借りてもいいの!?」

「まあ、いいけど……」

「やった!」

 

 俺のでいいなら家に戻らなくてもいいし、効率的だ。

 てか、俺のブレザーは望月に合わないと思うけど、大丈夫か気になる。


「温かいね!」

「まあ、さっきまで着ていたからね」


 やっぱり、大きすぎる。萌え袖になってるし……。

 でも、可愛いな。


「ふふっ♪ ふふふっ♪」


 なんか嬉しそうに見えるけど、なんでだろう。

 そのまま学校に入る俺たちだった。


 ……


「あっ! はなびちゃん! そのブレザー!」

「どう! 似合う?」

「男子のブレザーだね、はなび」

「どう! 私、カッコいい?」


 人のブレザーを借りて堂々と友達に自慢する理由はなんだろう。子供かよ、望月。

 席に着いた俺はじっと三人の方を見つめていた。


「あ、あのさ。青柳……!」


 すると、いきなり声をかけるクラスメイトがさりげなく前の席に座る。

 びっくりしてそのままじっとしていた。


「ああ、うん。どうした?」

「ちょっと! 話があるけど、いいかな?」

「ああ、いいよ」

「ここで話すのはあれだから、場所を変えよう」

「分かった」


 教室を出る二人、その姿をちらっと見ているはなびだった。


「ここならいいかも」

「そうか」


 俺と仲が良かった友達はみんな他の高校に行っちゃって、今この学校には友達がいない。もちろん、望月の友達と同じクラスになったけど、あの二人は女の子だから何もできない。それに俺も姉ちゃんと同じく人当たりがいい人じゃないから、すぐ友達を作るのは無理だった。


 さて、この人はどうして俺に声をかけたんだろう。

 その理由は分かりそうだけど、一応話を聞いてみることにした。


「あのさ! 青柳は……、望月と仲がいいよな?」

「まあ、そう……だと思うけど、どうした?」

「実は、俺! 望月に興味あるけど、どうやって声をかければいいのか分からなくてさ。手伝ってほしいんだ!」


 嫌だ。


「ああ、そういうことか」


 その話を聞いてすぐこの人はダメだと思ってしまった。

 よく分からないけど、そんな感じだった。俺が望月の幼馴染だからか。


「手伝ってくれるのか?」

「と言われても、俺にできることは何もない。もし本当に望月さんのことが好きなら、直接声をかけた方がいいと思う」

「ええ、青柳はしょっちゅう望月と一緒にいたんだろう? 手伝ってくれよ」


 これはよくあるパターンだ。望月は可愛いからよく周りにいる男たちが俺にこんなことを相談する。だから、俺には友達が少ない。中学三年生の時は望月と距離感ができて友達ができたけど、高校に入ってすぐこうなるなんて、面倒臭い。


 てか、なんで俺に相談するんだろうな。好きなら直接話しかけた方が良くない?


「何話してるの〜?」

「うわっ! び、びっくりしたぁ。いつきたんだよ、望月さん」

「さっき! なんか面白そうに見えてね!」

「も、望月!」

「うん? ああ、同じクラスの……」

「田中だ!」

「うん! そうだね」


 そしてなぜか俺の袖を掴んでいる。


「あれ? 望月。そのブレザー、男のブレザーだよな?」

「うん! そうだよ。私のうっかりして家のソファに置いてきたから、青柳くんの借りたの」

「えっ? ど、どういうこと? 二人とも付き合ってるのか?」

「付き合ってないよ? だよね〜?」


 そう言いながら笑みを浮かべる望月、それをこんな風に話す人初めて見た。


「あのさ……! 今日! 放課後、時間あるかな?」

「ない!」

「うん……」


 うわぁ、即答怖すぎる。

 まあ、望月にはよくあることだからそう言うのも無理ではない。もう慣れちゃったよな、あんな人たちには。

 そのまま田中は教室に戻った。


「面倒臭いよね? あんな人」

「まあ、望月さんが魅力的だから男たちが寄ってくるのも当然なことだと思う」

「青柳くんもめっちゃ魅力的な人だよ? 今朝———」

「それは忘れてくれ、俺が悪かった。連絡もせずうちに来るとは思わなあったからさ……」

「もっと見たかったけど、ドア閉じてしまったからちょっと惜しかった」

「ん?」


 聞き間違い?


「えっと……、何を?」

「青柳くんの脚! 私、けっこう好きだよ。男らしいし!」

「……望月さん」

「うん」

「忘れてください。お願いします」

「なんで!? 幼い頃にはさりげなく自分のパンツを私に自慢したじゃん」

「いつの話なんだよぉ……。それは小学生の時の話だろ!」

「私は気にしない!」

「俺は気になる!」


 なぜか、望月……。変態になってしまったような気がするけど、気のせいかな。

 てか、あんな可愛い顔で変なこと言わないでよ。


「ひひっ♡」


 まったく……。

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