2 私の幼馴染

 私の名前は望月はなび、そして私には誰にも言えない悩みがある。

 これは友達の凪沙ちゃんとすいちゃんにも言えない悩み。小学生の頃からずっと好きな人がいて、その人と同じ高校に行って、同じクラスになったのに、全然気にしていない。しかも、すぐ隣席に座っているのに全然気にしていない。どうすればいいのか分からなかった。


 なぜか、ムカつく。


「…………」


 でも、席でうとうとしているのが可愛すぎて癒される。

 バイトで疲れたみたいだね。

 そしてからかいたくなった私はこっそり青柳くんの脇腹をつついた。


「うっ……! はい!?」

「なんだ、青柳! また寝てたのか? ちょうどいい、この問題の正解は?」

「えっ? あっ! え、えっと……」


 ちらっと私の方を見る青柳くん、その顔があまりにも可哀想に見えてすぐノートに正解を書いて教えてあげた。慌てている姿もすごく可愛い。そういえば高校生になってから青柳さんのお店でバイトをすることになったってお母さんに言われたけど、そういうのは直接聞きたかった。


 なんか、仲間外れにされたような気がする。


「正解だ。次は寝るなよ、青柳」

「はい……」


 ホッとするその顔を見て笑みを浮かべていた。楽しい!


「あ、ありがとう。望月さん」

「どういたしまして、ふふっ」


 私たちは幼稚園の頃からずっと一緒だった。

 うちのお母さんが青柳くんのお母さんと仲がいいから、私たちは幼い頃から仲良くなるしかない環境で育てられた。それにすぐ隣だったから、遊びたい時はいつでも呼び出すことができる。それがすっごくよかったと思う。


 でも、あの頃の私は恋とかそういうのをよく知らなかった。

 ただ、すぐそばに同い年の男の子がいたからいつも一緒にいただけ。

 それだけ。


 でも、青柳くんは幼い頃から私のことをよく気遣ってくれた。

 甘いものとか、好きなものとか、青柳くんは私の好みをちゃんと覚えておいて、誕生日になると私もいつ話したのか分からないものをプレゼントしてくれる。そういうところが今はすっごく好きだけど、子供だったあの頃はよく知らなかった。


 それに気づいたのは小学校を卒業する前だった気がする。

 私たちは宿題が終わった後、いつも居間でゲームをしていた。

 そして私にはゲームをする時に青柳くんの足の間に座る癖がある。いつそんな癖ができたのかは分からない。知らないうちにゲームをする時はさりげなく青柳くんの太ももを叩くようになった。


 でも、青柳くんは私のことを全然意識してくれない。

 私だけだんだん好きになる。中学二年生の時までずっと青柳くんとくっついていたけど、それ以上は私が無理だった。私たち大きくなったし、そばにいるとずっと青柳くんのことを恋愛対象として見てしまうから無理だった。


 そしてずっと一緒にいたから慣れてしまったかもしれないと、偶然友達に言われたその言葉に私は危機を感じた。だから、いろんなことを試したと思う。


 まずは可愛くなること! そうするときっと青柳くんが私を意識してくれる。

 と思っていたけど、すごい変化は起こらなかった。


 その後は嫉妬させるという作戦。青柳くんにはまだ可愛いって言われたことないけど、周りの男子たちはいつも可愛いって言ってくれたから「私人気者だよ」って青柳くんを嫉妬させることにした。

 いい作戦だと思っていたけど、全然気にしていなかった。


 それから半年以上経ったけど、私たちの間にはどんな変化もなかった。

 そして最後は距離を置くこと。そうすると私のことを少しは意識してくれると思ってやってみたけど、私だけがつらくなるバカみたいなやり方だった。そのせいで青柳くんと私の間に今までなかった距離感ができてしまった。大失敗。


 やっぱり、恋愛経験が全くない私にクラスメイトのアドバイスは意味ないと思う。

 だから、素直に自分の気持ちをアピールをすることにした。今更だけどね。


「青柳くん! 今日のお弁当は?」

「えっと、友達と食べないの? 望月さん」

「うん!」


 昼休み、一人でお弁当を食べようとした青柳くんに声をかける。

 中学生の頃によく二人でお弁当を食べていたから、それが癖になったように見えるけど、どうして私がいないのに一人で食べるのか分からない。高校生になってからよく一人で食べているような気がする。


 ムカつく……!

 そのまま青柳くんの隣に座る。

 じっと睨んでいた。


 私が声をかけないと青柳くんは何もしない。

 多分、それは私がバカなことをしたからだと思うけど、それでも! もっと……、積極的になってほしい。


「な、なんで距離を縮めるんだ? わ、悪いことでもしたのかな? 俺……」

「別に……。中学生の頃にはこんな風に食べてたから」

「そ、そうか。うん」


 そのままじっと青柳くんの顔を見ていた。

 やっぱり、中学生の頃よりカッコよくなったと思う。そして変態って言われても構わないから、一度だけでもいいから、青柳くんの首を噛んでみたい。どんな反応をするのかすごく気になる。


 きっと可愛い声出すよね……。


「うふふっ」

「……望月さん、大丈夫?」

「あっ! うん! 大丈夫!」


 今更だけど、私はどうしてあんなバカみたいなことをしたんだろう。

 そのせいで青柳くんが私を警戒しているぅ。


「そ、そうだ! 青柳くん。ケーキ屋さんでバイトしてるよね?」

「うん」

「遊びに行ってもいい?」

「いいよ。お母さんきっと喜ぶし、ケーキも食べれるから」

「うん! じゃあ、今日は一緒に帰ろう。青柳くん」


 一歩踏み出した。

 そして青柳くんの顔を見た時、なぜかすごく慌てているような気がして緊張してしまう。


「ダ、ダメかな? 一緒に帰るのは」

「い、いや! ああ、うん。行こう。一緒に帰るのは久しぶりだからちょっと……、うん」


 なんか、照れてるように見えるけど! 顔、真っ赤になってて可愛い。

 これは記念として……。


「な、なんで写真を撮るんだ……? いきなり?」

「ふふっ」

「やっぱり分からない、望月さんのこと」

「分からないの? 私たち幼馴染なのに」

「そう、よく分からない」

「じゃあ、私のこと教えてあげようか?」

「どうやって?」

「昔みたいにぎゅっとして! そうしたらきっと思い出せるよ! ふふっ」

「断る!」

「チッ」


 ……


 放課後———。


「望月さん、行こう」

「な、何!? 二人ともやっと付き合うことになったの!?」

「青柳くん、やっと!」


 青柳くんが「行こう」って言っただけなのに、凪沙ちゃんとすいちゃんがめっちゃ興奮している。それも無理ではない。あの二人は私たちの関係をよく知っている親友で、青柳くんを含めて私たち四人は同じ中学校を卒業したからね。


「あっ、今日は一緒に帰———」


 さりげなく青柳くんの背中を叩く凪沙ちゃん。


「そうそう! それだよ! うん! 応援してる! 私たちは先に行こう、すい!」

「うん!」

「えっ? うん……? いや……」

「応援するね! 青柳くん、はなびちゃん」


 そのままぼーっとして二人の後ろ姿を見つめる青柳くんに、思わず笑いが出てしまう。

 なんで体が固まったしまったんだろう、可愛い。


「ねえ、青柳くん。女の子たちの後ろ姿をジロジロ見ないでよ」

「あっ! ち、違う!」

「冗談! ふふっ」

「…………」


 青柳さんのお店はうちからそんなに遠くないところにあって、一緒にお店に寄ってそのまま一緒に帰ることにした。そして私たちがこんな風に一緒に歩くのは一年ぶりかもしれない。中学三年生の頃から距離感ができてしまって……、こういうのできなくなっちゃったから……。仕方がないね。


 でも、今はすぐそばに青柳くんがいるから! 最高だ。

 そして手の甲が触れそうな距離、何気なく私の手の甲をくっつけた。

 これはわざとだった。


「…………」


 ちらっと青柳くんの横顔を見る。どんな反応をするんだろう。

 中学生の頃みたいに手を握ってくれたらいいけど、それは無理だよね。多分。


「手、冷えてるね。望月さん」

「うん。私、手が冷たいの」

「…………」


 その時、青柳くんが私の指を握ってくれた。


「あっ、着いた。ここ……」


 そしてすぐ手を離す青柳くん。

 なんか、足りない!


「えっ?」


 たった五秒……、五秒……!?

 それで私が満足できるわけないでしょ!? と大きい声で言いたかったけど、我慢した。


「お母さん、望月さん来たよ」

「ああ、はなびちゃん! あれ? どうしたの? 顔色が悪いね」

「えっ? いいえ! 何も!」

「湊!!! お母さんがいっつも! はなびちゃんのことを大切にしてって言ったのに、一体何をした!?」

「えっ? な、何もしてねぇよ!」


 入り口で青柳さんに耳を引っ張られる青柳くん。

 普段の私ならすぐ止めたけど、今日はその姿を写真で残すことにした。

 私は、私の幼馴染が大好き。

 青柳くんのこと大好き!


「だから、もっと私に優しくして。青柳くん」

「な、何もしてないけどぉ。本当に……」


 やっぱり、可愛い。

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