第2話

流石にああは言ったが、手ぶらでは不味いと思った葛籠八十一。

現金を再び引き下ろして、食材を購入した。

そして帰路につき葛籠八十一が自宅へ戻ろうとしていた矢先。


「すいません通れません」

「離れて下さい、危ないですよっ!」


声と野次馬が大勢いた。

何時もの帰り道は何故か、道路が封鎖されていた。


「?」


何故だろう、そう考える葛籠八十一。

周辺には、多くの住民が野次馬をしていた。

住民を掻き分けて仕切りの前へと向かうと警察が居た。

腕には、『神査』と言う腕章を付けている。

これは、神が出現した際に現場を封鎖する者を示していた。


「すいません、此処通れません」


警察が、葛籠八十一を見てそう言った。

すかさず、葛籠八十一は話しかける。


「この地域一帯、神が出現したんですか?」


「はい、そうですよ、でも通れませんので」


と、頑なだった。

本来ならば、警察の言う事は聞くのが良いだろう。

だが、当事者が住む地域であるのならば話は別だ。


「俺はこの先に自宅を持ちます、帰りたいのですが」


「え?あぁ、そうなんですか……いやあ、困ったなあ」


と、頭を掻く警察は葛籠八十一に向けて話し出した。


「かなり強力な零落神が墜ちたみたいでね……複数の拝神者が討伐してるんですよ、……最悪、貴方の家も破壊されるかも知れませんが……元々、ここら一帯は零落神が墜ちやすい地域ですからねぇ、了承はして貰わないと……」


零落神。

遥か上空には、神が住まう高天原があるとされている。

そして、神としての神格を喪った神は、零落と言う現象を以て地へ落ちる。

そうなると、再び神格を得ようと神は暴れ出す。

これを、恐怖による信仰心を得る為の破壊衝動であり、そうする事で再び高天原へ戻る事が出来ると考えている為だ。

中でも、禁忌に属する程の強力な零落神が墜ちたらしく、それで強制的に封鎖されている状態だった。


「だったら……何も問題は無い筈ですが」


そう言いながら、葛籠八十一は両手を合掌する。

ぱしん、と言う音と共に、彼の背後から眩い後光と共に光輪が出現した。

それは、拝神者の証明である代物であり、それを見た警察官は目を丸くしていた。


「ああ……これは失礼しました、ではどうぞ」


と、漸く、葛籠八十一は封鎖された道路の先へと行く事を許される。

葛籠八十一は大きく息を吐いて、走り出した。


「早くしなければ……神様ッ」


葛籠八十一は自宅へと全速力で走り出す。

彼の自宅には、彼が契約した神が祀られていた。

その神が、零落神に祓われる事を考えると恐ろしくて仕方が無かった。

だから、一刻も早く、神の元へと向かい出していた。


「奉納ッ」


財布の中と直結した現金を神子化じんしかする。

多くの神や神を信仰する視聴者、あるいは拝神者が神の力を一時的に使う為に、自らの所有物の一部を変換する事を神子化と呼ばれる。

そして、有り金を神子化した事で、予め登録されている自らの神に向けて神子化した現金を奉納する事で、神の力である神力を得る。

そして、この神力を消耗する事で身体能力を強化する事が出来た。


一時的に、新幹線と同等の速度になる葛籠八十一は、殺風景な焼野原と化した地を目指す。

それは零落神が既に滅ぼした、と言う訳ではない、幼少期の頃に、別の零落神が出現し、彼の故郷を焼き払ったのだ。

多くの零落神が出現し易くなった為に、政府は零落神出没する地域の為に出入を制限した。


葛籠八十一も一度は故郷を離れたが、神様と出会い、この地へ戻って来た。

その大切な場所で、再び零落神が墜ちて被害を齎そうとしている。


「……許せるか」


歯軋りをしながら、葛籠八十一は走り続ける。

そして、彼は破壊音と共に地面が抉れ、土煙が発生する場所に目を向けた。

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