第3話
3時間前。
零落神の出現に伴い、近隣の住民は避難。
討伐の為に、複数の拝神者に要請を行う。
そして、拝神者グループが受託。
―――拝神者、ゼルエルは輸送用の車の中で指を操作している。
神子化された電子機器は、彼女の視界の中できちんとディスプレイを表示し、それを確認しながら彼女の評価……エゴサをしていた。
そんな彼女の行動に対して、彼女の座席から離れた位置から声を掛ける女性が居た。
「ゼルエルさん、今日の配信ですけど……」
委縮した様な口調で、拝神者ゼルエルに聞く。
すると、彼女は赤色の瞳でその拝神者を一瞥すると、即座にエゴサへと戻る。
「どうぞご勝手に……私は個人でやりますので」
そう冷たく言い放ち、自らの世界に入り込む。
そんな彼女の言葉に、二人組の女性拝神者は態々彼女に聞こえる様な声で苛立ちを口にする。
「なにあれ……お高くとまっちゃって」
「しッ……あれでも、あっちの方が登録者数が多いんだから……」
「驚異的な程だもんね、6300万人……」
「色んな星の人が彼女を見てるレベルだもん……」
この世界は人間が住める星は一つだけでは無かった。
数珠の様に十二の星が連なっており、その内の一つが、この物語の舞台となる星である。
ゼルエルは、女性たちの声に耳を傾けたが、心が挫ける様な事は無かった。
むしろ、その言葉を歯牙にすらかけない様子だった。
(陰口、悪口、どうぞご勝手に)
拝神者、ゼルエルは他者などどうでもいい。
(わたくしは、その程度で折れる様な覚悟はしてませんから)
そう思える程に、彼女の精神は達観しているワケではない。
(……そう、私がどう言われようと勝手)
他の人間から嫌われる事を自覚していても。
心に傷は付くが、即座に癒されるのだ。
何故ならば―――彼女の心には神が在る。
(けれど、私の行為で、私が崇める神様を穢してはならない)
拝神者は、神に見初められた存在。
神の恩寵、その力を使用し、神威を周囲に知らしめる事で信仰心を得る。
その為に、人間に神の力を授けて教授させるのだ。
指を軽く操作して、彼女が自作したイラストを確認する。
(あぁ……月と太陽、狩猟の神……アルテラス様……)
アルテラス。
月と太陽の神にして、狩猟の女神。
その壮大な神に一瞥された事で、ゼルエルは拝神者となった。
(わたくしには、あなたさえいればそれで良いのですから)
眼を瞑り、彼女は夢想する。
それは彼女との出会い、原点となる事だった。
幼少期の頃、ゼルエルは大人しい性格だった。
何処か天然が入った彼女は、周囲の人間から好かれた。
主に異性から可愛がられて、玉の様に育てられたのだ。
(幼少期の頃から、わたくしは他の人とは馴染めない性格でした)
だが、その可愛さを容認しないのが、同性の女性たちだった。
小さい頃から、彼女は分からぬままに同性から嫌われる。
それは、彼女に恋をする異性が多く、それ故に同性が好いた異性すらも彼女に奪われる。
故に、ゼルエルは小さい頃から虐められていた。
(何故か、わたくしの事をいじめてきた方々は、すべてはわたくしが悪いと言い蔑んだ)
原因を口にしなかったのは、容姿が問題とすれば、女性としての尊厳を傷つけられる。
それを語れば、女性として敗けてしまう、だから、それ以外の理由で彼女を疎外したのだ。
単純に気に入らない、口調がムカつく、私達を見下している、その様な些末な理由で彼女を外して来た。
(わたくしは何もしていません、当然です、空気も読みましたし、会話に合わせて人として馴染もうとした)
それでも、ゼルエルは必死になっていた。
他人から嫌われる、それが嫌だったから、どうにかして一緒に居たかったから。
だが、どれ程努力をしても彼女は嫌われた。
(それなのに……誰も彼も、わたくしから離れていく)
次第に、彼女に好意を持つものも、恥ずかしさからか、彼女をワザと辛かったりイジメたりした事もある。
全ては可憐さゆえの所業だが……ゼルエルにはそれが分からなかった。
そして何よりも彼女の心に傷をつけたのが……両親の離婚。
原因は単純明快、その常人離れした美しさが、父親ですらも魅了してしまったが故。
両親、肉親、そういった葛藤故に、何とか理性を以てゼルエルに性的暴行をする事が無かったが、母親が父親の暴走を見かねて離婚を切り出した。
当然、幸せな家庭であった筈が、女として母親としてプライドを傷つけられた母親は自らの娘を祖母の元へ送った。
幸いにも、男を惑わす彼女の性質は、既に他界した祖父には意味を成さず、何とか平穏無事に過ごす事は出来たが……それでも、祖母は忌々しい子供として彼女を避けた。
(両親ですらもわたくしを捨てた……ひとりになったわたくしは孤独だった)
天涯孤独を感じる彼女は一人寂しく涙で枕を濡らす日々が続いた。
(寂しかった、一人が怖かった……けれど天啓が舞い降りた)
生きる意味などまるで分からなかった彼女だったが……ある日を境に、彼女は神託を得たのだ。
(わたくしを見つけて下さった、わたくしの神、アルテラス様)
神が哀れな彼女を認識し、その身に神の力を与えた。
これにより、ゼルエルは拝神者となり……同時に、彼女の孤独を癒してくれた。
(この身に神の恩寵を与え、生きる為の術を与えて下さった……そして、今のわたくしがある)
誰も彼女から避けていた。
だが、神だけは避けずに力を与えた。
ぽっかりと空いた穴の中に、信仰心が芽生えたのだ。
(もう他の方など関係ありません、ただ、私の生きる意味はアルテラス様のみ)
それ以降、彼女は神のみを信じて成長を続けた。
その結果、有名拝神者として上位に組み込む程の有名人となった。
誰も彼女を避ける事はしない、だが、彼女が他者を避ける様になった。
(神様のために、わたくしは如何なる手段を用いてでも、神を信仰するのみ)
それ以降、彼女は完成したのだ。
冷酷な天使の遣い、拝神者・ゼルエルとして。
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