第15話 アルスの過去
俺には、特別な力がなかった。
幼い頃から、俺はいつもライオネルの背中を追いかけていた。彼は、雷を操る力を持っていた。彼の力は、俺にとって憧れであり、同時に深い嫉妬の対象でもあった。ライオネルの隣には、いつもセシリアがいた。セシリアは、無力な俺にも優しく接してくれた。その笑顔を見るたびに、俺は心が温かくなった。
俺は、セシリアのことが好きだった。しかし、それを言葉にすることはできなかった。ライオネルという存在が、あまりにも大きすぎたからだ。彼は、セシリアの一番の理解者だった。俺は、いつかライオネルのように強くなり、セシリアを一番近くで守れるようになろうと心に誓った。
ある日、俺はライオネルとセシリアの後を追っていた。
雨が降り始めた。雷鳴が轟き、空に稲妻が走る。その光景は、ライオネルの雷の力と重なり、俺を憧れと同時に、嫉妬に駆り立てた。
その時、一筋の光が、セシリアを貫いた。
俺は、声も出なかった。何が起きたのか分からなかった。ライオネルが、倒れたセシリアを抱きかかえる。
「セシリア…!」
ライオネルの絶望的な叫び声が、俺の耳に届く。俺は、その光景をただ見ていることしかできなかった。セシリアを助けることも、ライオネルを助けることもできなかった。自分には、何もする力がない。ただ、無力に立ち尽くすことしかできない。
「セシリア…! なぜ、こんな…!」
俺は、雨に濡れた顔を上げて空を見上げた。その瞳には、雨粒と、溢れる涙が混じり合っていた。
「俺は…! 俺は、君を守りたかった…!」
その声は、虚しく空に消えていった。
この後、俺は神と出会い、勇者としての力を得た。その力は、セシリアを守ることができなかったという、俺の後悔と無力感の上に築かれたものだった。神を信じ、その意向に従うことこそが、セシリアへの愛を証明する唯一の道だと、俺は信じ込んでいた。
そして、今、俺は再びライオネルと出会った。奴は、セシリアを守れなかった異端者。俺は、神から力を与えられ、彼女の死の真実を知る者として、奴を討ち果たす。それが、セシリアへの、俺の誓いだった。
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