第13話 2人の戦い
アルスの剣が、ライオネルの頬を掠めた。放たれた雷の軌跡が、アスファルトを黒く焦がし、白い煙を上げる。ライオネルは、迫りくる幼馴染の攻撃を避けながら、反撃することはしなかった。
「アルス! 落ち着け! 俺だ、ライオネルだ!」
彼の声は、歓声とアルスの剣から放たれる雷鳴に掻き消された。アルスの瞳は、憎悪に燃え、その表情には一片の迷いもない。彼はライオネルを、かつての親友ではなく、神に敵対する「異端者」としてしか見ていなかった。
「黙れ! 貴様はセシリアを死なせた! 貴様は彼女を救えなかった!」
アルスは叫びながら、さらに攻撃を激化させた。ライオネルは、アルスの言葉に息をのんだ。彼の怒りの矛先は、神ではなく、自分に向けられていた。セシリアの死の真実を知らないアルスは、目の前で彼女を守れなかったライオネルを恨んでいたのだ。
ライオネルは防御に徹した。しかし、アルスの力は圧倒的だった。神に祝福されたその力は、ライオネルの雷とは比較にならないほど強大で、純粋だった。
「ライオネル! なぜ戦わぬ! 奴は本気だぞ!」
ヴァルカンの声が焦りを露わにする。しかし、ライオネルはアルスを傷つけることなどできなかった。彼は、ただひたすらに、アルスの攻撃を避け続けた。
ついに、アルスの剣がライオネルの腹部を捉えた。雷が体を駆け抜け、ライオネルは膝をつく。雷の力が体から抜け落ち、その場に崩れ落ちた。
「これで終わりだ、異端者!」
アルスは勝利を確信し、とどめを刺そうと剣を振り上げた。その剣には、これまで以上の強大な雷が宿っていた。
その瞬間、一つの声が響き渡った。
「勇者様! おやめください!」
ライオネルは顔を上げた。そこに立っていたのは、聖神柱教会の使徒だった。彼女は両手を広げ、アルスの前に立ちはだかった。
「なぜだ、使徒よ! この異端者を討伐せよと、神は望んでおられる!」
アルスは怒りの声を上げた。しかし、使徒は怯まない。彼女は静かに、そして悲しみを込めた声で言った。
「勇者様。この異端者を殺して、あの人が喜ぶと思いますか?」
アルスの動きが、一瞬だけ止まった。しかし、彼の瞳はすぐに憎悪の色を取り戻す。
「あの人が喜ぶだと? 冗談を言うな! 貴様も異端者に騙された哀れな女か!」
アルスはそう言い放つと、使徒を無視して、ライオネルへと剣を振り下ろそうとする。しかし、その時、ライオネルの体から、再び雷の力が迸った。それは、怒りでも、憎悪でもない、純粋な悲しみの力だった。
「アルス…! 俺は、お前と戦いたくないんだ…!」
ライオネルはそう叫び、アルスが振り下ろした剣を、自らの雷の剣で受け止めた。二つの雷がぶつかり合い、あたりに激しい光と爆音が響き渡る。
二人は、互いを睨みつけながら、剣を押し合った。その瞳には、かつての友情の面影はどこにもない。そこにあるのは、互いの信じる正義と、決して交わることのない道だった。
アルスは、ライオネルを「セシリアを死なせた異端者」として、ライオネルは、アルスを「神に騙された哀れな友」として見ていた。二人の間に、和解の余地はなかった。
「ライオネル…! 必ず、貴様を討ち果たす!」
アルスはそう叫ぶと、剣にさらに力を込め、ライオネルを押し返した。ライオネルは、その一撃に耐えきれず、地面を滑りながら後退した。
「私たちは、敵同士だ。二度と、俺の前に現れるな」
アルスはそう言い放つと、剣を鞘に収め、群衆の中から去っていった。その背中は、ライオネルを完全に拒絶していた。
ライオネルは、その場に一人立ち尽くした。友との再会は、和解ではなく、決別の刃を突きつけられた形となった。彼の心は、かつての憎悪だけでなく、新たな悲しみで満たされていた。
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