第12話 再会の刃
聖神柱教会の使徒が去ってから三日後、ライオネルはルナリアの街の大通りに立っていた。勇者が街に到着するという情報が広まり、人々が歓喜に沸く中、ライオネルは静かにその時を待っていた。
「ライオネル。勇者の力は、神に祝福されたものだ。だが、その力の源はお前の雷と同じ、本質的には同じだ。お前の雷は怒り、勇者の雷は…祝福、か」
ヴァルカンの声が、ライオネルの耳に届く。ライオネルは、セシリアを殺した神を信じる者たちに、再び向き合うことに身構えていた。
その時、遠くから歓声が聞こえてきた。馬車を先頭に、神官たちが旗を掲げ、行列をなして街を進んでくる。その中心に、一人の青年がいた。
青年は白い鎧を纏い、背中には雷を模した紋章が刻まれた剣を背負っている。彼の髪はライオネルと同じ白銀だったが、黄色のメッシュはなく、その瞳は、神の光を宿したかのように澄んでいた。ライオネルは、その顔を見て、息をのんだ。
「アルス……」
それは、かつて彼が最も心を許した、幼馴染の顔だった。アルスは、ライオネルが異端者として追放されてから、行方が分からなくなっていた。まさか、彼が勇者として、自分の前に再び姿を現すとは。
アルスは、群衆に囲まれながらも、その視線はただ一人、ライオネルを捉えていた。その瞳に、ライオネルは昔のような友情や温かさを見出すことはできなかった。そこにあったのは、純粋な怒りと、そして…憎悪だった。
「ライオネル……貴様!」
アルスは、馬車から飛び降り、群衆をかき分けてライオネルに向かってくる。周囲の人々は、勇者の突然の行動に驚き、道を空けた。
「なぜここにいる! 貴様は、神に背いた異端者のはずだ!」
アルスは、背中の剣に手をかけた。その剣は、雷を宿し、青白い光を放ち始めた。
ライオネルは、驚きと戸惑いから、何も言葉を発することができなかった。アルスの目は、ライオネルがかつて経験した、神官たちの憎悪と同じ光を宿していた。
「アルス、待て! 俺だ、ライオネルだ!」
ライオネルは必死に呼びかけた。しかし、アルスの耳には届かない。
「黙れ! 貴様のような異端者が、神聖なルナリアの街にいることなど許されん! 俺の剣で、貴様を討ち果たす!」
アルスは、雷を宿した剣を振り上げ、ライオネルに向かって襲いかかってきた。その剣から放たれる雷は、ライオネルの雷とは比較にならないほど、純粋で、強大だった。
「ライオネル、避けろ! 奴は本気だ!」
ヴァルカンの警告が脳内に響く。ライオネルは、迫りくる幼馴染の刃から、かろうじて身をかわした。アルスの怒りの理由が分からなかった。ただ、彼は自分の命を狙っている。その事実だけが、ライオネルの心を切り裂いた。
「どうしてなんだ、アルス……!」
ライオネルは叫んだ。しかし、アルスは答えない。彼はただ、神に命じられるままに、かつての友を「異端者」として排除しようとしていた。
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