第11話 予期せぬ再会

​ライオネルは、ホブゴブリン討伐の依頼を終えてからというもの、順調に冒険者としてのキャリアを積んでいた。ゴブリンの群れ、巨大な野猪、森に潜む毒蛇。一つ一つの依頼をこなすごとに、彼の雷の力はより鋭く、より洗練されていった。魔王ヴァルカンは、その成長を静かに見守り、時折、的確な助言を与えた。

​「お前の雷は、もはやただの怒りではない。それは、意志を持つ武器だ」

​ヴァルカンの言葉に、ライオネルは確かな手応えを感じていた。彼は冒険者ギルドでの活動を通じて、様々な情報に触れた。しかし、肝心の神の代行者に関する情報は、未だ掴めていなかった。

​「ライオネル。神の代行者は、そう簡単には見つからぬ。奴らは神の意向を遂行するために、この世界の闇に潜んでいる」

​ヴァルカンの言葉は、ライオネルの焦りを煽る。

​ある日の午後、ライオネルは依頼を終え、ギルドの酒場で一人、食事をしていた。疲れを癒すようにグラスを傾けていると、一人の女性が彼の目の前に現れた。

​「またお会いしましたね、雷の冒険者様」

​その声は、かつてライオネルを震え上がらせた、澄んだ声だった。振り返ると、そこには聖神柱教会の使徒が立っていた。彼女は以前と同じく、純白の司祭服を身に纏い、その首元には神聖な紋章が輝いている。

​ライオネルは警戒し、グラスを置いた。

​「どういうご用件で?」

​ライオネルの冷たい声に、使徒は微笑みを崩さなかった。

​「お話ししたいことがありまして。勇者をお探しでしょう?」

​ライオネルは、心臓が跳ね上がるのを感じた。なぜ、この女がそれを知っている?

​「…なぜ、そう思うんです?」

​「あなたのその髪色。そして、雷の力。サンライズ王国では、それを「雷の異端者」と呼んでいますが、ここルナリアでは、それを「勇者の証」と呼ぶ者もいるのです」

​彼女の言葉は、ライオネルを嘲笑っているかのようだった。しかし、その瞳には、深い悲しみのような光が宿っている。

​「安心してください。私は、あなたを捕らえに来たのではありません。ただ、あなたに真実を知ってほしいだけなのです」

​使徒はそう言うと、静かにライオネルの隣に座った。

​「あなたがお探しの勇者ですが、間もなくこのルナリアに到着します」

​ライオネルは驚愕した。

​「なぜ、そんなことを俺に…」

​「勇者もまた、神に利用されているのです。彼らの力は、神の都合の良いように使われる。あなたも、私と同じように、その事実に気づいているはずです」

​彼女はそう言いながら、ライオネルの目を真っすぐ見つめた。その瞳には、ライオネルが過去にヴァルカンの瞳に見た、深い絶望の色が宿っていた。

​「勇者は、3日後にルナリアに到着します。私は、彼が神の操り人形になる前に、あなたに出会ってほしいのです」

​使徒は、そう告げると静かに席を立ち、人混みの中に消えていった。ライオネルは、彼女が座っていた椅子に手を置いた。まだ、その温もりが残っている。

​「ライオネル。あの女の言葉、どこまで信じる? 勇者が来るとは限らんぞ」

​ヴァルカンの声が警告を発する。しかし、ライオネルは確信していた。あの女の瞳に宿っていた絶望は、決して偽りではない。

​ライオネルは、勇者との出会いを求めて、ルナリアの街を歩き始めた。彼の心は、かつての復讐心だけでなく、新たな真実を求める探究心で満たされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る