第10話 冒険者の初仕事

ライオネルは、聖神柱教会の使徒との出会いで張りつめた心を落ち着かせるため、依頼板へ向かった。無数の依頼書の中から、彼は「ゴブリン討伐」と書かれた一枚を選んだ。最も下級の冒険者向けで、危険も少ないだろう。

​「ライオネル。ゴブリンは弱いが、群れをなす。油断はするな」

​ヴァルカンの声が警告する。

​ライオネルは一人、街から少し離れた森へと向かった。ゴブリンの群れはすぐに発見できた。彼らは人間の集落を襲い、盗んだ食料を漁っていた。ライオネルは、雷の力を纏った剣を抜き、一気に群れの中へ飛び込んだ。

​「ぎゃああ!」

​ゴブリンたちの悲鳴が森に響く。ライオネルの剣は、雷を纏うことで、ゴブリンたちの貧弱な装備をいとも簡単に破壊し、彼らの肉体を焼き焦がした。彼はゴブリンを倒すごとに、セシリアを殺した神への憎しみを、雷の力に変えていた。

​「どうだ、ヴァルカン。これが俺の力だ」

​心の中でそう呟くと、ヴァルカンは静かに答える。

​「お前の雷は、まだただの怒りだ。だが、その怒りは、確かに力となっている」

​ライオネルは次々とゴブリンを倒し、依頼を順調にこなしていった。しかし、最後のゴブリンを倒した瞬間、背後から鈍い音が響いた。

​「グオオオオ!」

​ゴブリンよりも一回りも二回りも大きな、赤い肌の魔物が立っていた。その手には、巨大な木製の棍棒が握られている。ホブゴブリンだ。ライオネルは、下級依頼にホブゴブリンが含まれていないことを知っていた。これは、イレギュラーな事態だった。

​「ライオネル、気をつけろ。奴は普通のゴブリンとは違う。並の冒険者では手に負えん」

​ホブゴブリンは、ライオネルに向かって棍棒を振り下ろした。ライオネルは雷の力を剣に集中させ、棍棒を受け止めた。雷が棍棒を伝い、ホブゴブリンの体を焼き焦がす。ホブゴブリンは悲鳴を上げ、棍棒を放した。

​「やったか…!」

​ライオネルがそう思った瞬間、ホブゴブリンは再び棍棒を握り、ライオネルの剣の届かない距離から、強烈な一撃を放った。ライオネルは、雷の力で盾を作り、その一撃を受け止めた。だが、その衝撃は想像以上だった。盾は砕け散り、ライオネルは数メートル後方へ吹き飛ばされた。

​「クソッ!」

​ライオネルは体勢を立て直し、再びホブゴブリンに向かって走り出した。彼は、雷の力を体に集中させ、その速度を上げた。ホブゴブリンは、再び棍棒を振り下ろそうとするが、ライオネルの速さについていけない。

​ライオネルはホブゴブリンの懐に飛び込み、雷を纏った拳を叩き込んだ。

​「これが…俺の…怒りだ!」

​ライオネルの雷の力が、ホブゴブリンの体に流れ込み、内部から焼き尽くした。ホブゴブリンは、断末魔の叫びを上げ、その場に崩れ落ちた。

​「……見事だ、ライオネル」

​ヴァルカンの声が、疲弊したライオネルに響く。

​ライオネルは、ホブゴブリンの残骸から、依頼達成の証である耳を切り取った。彼はこの冒険で、自身の雷の力が、単なる怒りだけでなく、戦うための武器になることを知った。

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