第9話 疑念
ライオネルの心臓は、警鐘を鳴らし続けていた。聖神柱教会の使徒。サンライズ王国では、彼のことを「雷の異端者」として忌み嫌い、その特徴的な髪色まで記して指名手配しているはずだ。
「もしかして、勇者を探しているのですか?」
彼女の声は穏やかだったが、その瞳はライオネルの髪の毛に、その白銀の髪に走る雷のような黄色のメッシュに、釘付けになっていた。ライオネルは、全身の血の気が引いていくのを感じた。
ヴァルカンの声が、脳内で警告を発する。
「ライオネル。この女は、お前の存在を疑っている。誤魔化せ」
ライオネルは、冷静を装い、グラスに手を伸ばした。震える手でそれを持ち上げ、一口呷る。
「勇者、ですか……?」
彼は口の端を緩め、わざとらしいほどに世間話のような口調で応じた。
「さっき、そこの受付嬢さんに聞いて。昔、雷の魔法で世界を救った勇者がいたとか、そんな話を。それが気になっただけです」
彼は、視線を彼女の顔からそらし、ギルドの壁に貼られた依頼書へと向けた。彼女の疑念の視線が、まだ自分を捉えているのを感じた。
「雷の魔法、ですか。それは……神に許された聖なる力です。もしあなたがその力に興味をお持ちなら、教会で教えを請うことをお勧めします」
彼女の言葉は、表面的には親切な助言に聞こえた。しかし、その裏には、ライオネルの髪色と雷の力が、神から与えられたものではないと見抜いている、鋭い推測が隠されていた。
「いえ、俺はただの冒険者ですから。そんな大それた力、いりませんよ」
ライオネルは、できる限り自然にそう言い放った。彼女は、ライオネルの顔をじっと見つめた後、フッと笑みを浮かべた。
「そうですね。この世界は、まだまだ知らないことばかり。あなたも、いずれ真実にたどり着くでしょう」
彼女はそう言い残すと、席を立ち、ギルドを後にした。ライオネルは、彼女の姿が見えなくなるまで、その場を動けなかった。
「……危なかったな、ライオネル」
ヴァルカンの声に、ライオネルは安堵のため息を漏らした。
「ああ。あの女は、俺のことが分かっていた。だが、なぜ俺をその場で捕らえなかった?」
「さあな。もしかすると、彼女もまた、神の真実を追っているのかもしれない。だが、それはただの推測だ。あの女のことは、警戒を怠るな」
ライオネルは、残った酒を一気に飲み干した。彼は、神の代行者たちを探す旅が、想像以上に危険なものであることを、改めて痛感した。
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