第8話 聖神柱教会

​リリアに冒険者登録を促されるまま、ライオネルは手続きを終えた。彼女は朗らかに笑い、「分からないことがあったらいつでも聞いてくださいね!」と言い残し、他の冒険者たちの応対に戻っていった。

​「リリア…か。彼女は神の代行者ではなかったようだな」

​ヴァルカンの声が脳内に響く。

​「当たり前だ。神の代行者が冒険者ギルドの受付嬢をしているなど、ありえないだろう」

​「……そうか」

​ライオネルはギルドの酒場へ向かい、カウンター席に腰を下ろした。彼は、勇者に関する情報がないか、耳をそばだてた。しかし、飛び交う会話は、魔物討伐の自慢話や依頼の報酬額についてばかりだ。

​「この世界には、神の代行者というものがいる。彼らは神の力を分け与えられ、この世界の秩序を守っている」

​ヴァルカンの言葉が脳裏によみがえる。しかし、彼らの名前は誰も口にしない。

​「ヴァルカン。勇者や聖女の情報は、ここでは得られないようだ。彼らは、表には出てこないのか?」

​「ああ。神の代行者たちは、神の意向を隠れて遂行する。彼らの存在は、この世界に住む者たちにとって、単なる伝説に過ぎぬ」

​ライオネルは、グラスを静かにテーブルに置いた。情報がない。この広大な世界で、どうやって神の代行者たちを見つけ出せばいいのか。焦燥感が募っていく。

​その時、一人の女性が彼の隣の席に座った。白を基調とした、清潔感のある司祭服に身を包んでいる。彼女の首元には、サンライズ王国でよく見かけた、太陽をかたどった神聖な紋章が輝いていた。


​「この街で、その紋章を見るのは珍しいな」

​ライオネルは、思わず呟いた。女性は微笑む。

​「ええ。私は、サンライズ王国に拠点を置く、聖神柱教会から参りました。このルナリアに、聖神柱教会の教えを広めるために」


​彼女の言葉に、ライオネルの心臓が強く脈打った。聖神柱教会。セシリアを殺した神を崇める教会だ。

​「聖神柱教会の、使徒です」

​彼女はそう名乗った。その声は、驚くほど澄んでいて、不聴に耳に心地よかった。しかし、その声はライオネルにとって、忌まわしい過去の記憶を呼び覚ます、悪魔の囁きのように聞こえた。

​「もしかして、勇者を探しているのですか?」

​彼女の瞳は、彼の心を見透かすかのように真っすぐだった。ライオネルは、反射的に体を硬直させた。なぜ、この女がそれを知っている? ヴァルカンの声が、脳内で冷酷な警告を発する。

​「ライオネル。気をつけろ。教会は神と繋がりがある。もしや正体がバレたやもしれぬ」

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