第2話 魔王の城
ヴァルカンが差し出した手は、ライオネルの運命を決定づけるものだった。復讐心に駆られ、彼はその手を取った。肌に触れたのは、人ではない何かの冷たさと、微かに燃えるような魔力の熱だった。
「良い選択だ、雷の異端者よ。さあ、私について来い」
ヴァルカンは満足げにそう言うと、ライオネルを振り返りもせず、闇の中へ足を踏み出した。ライオネルもまた、瓦礫と化した神殿に背を向け、彼に続いた。
道のりは奇妙なものだった。ヴァルカンはただ歩いているだけなのに、彼らの周囲の景色はまるで幻のように変化していった。湿った森は瞬く間に乾いた岩場に変わり、やがてライオネルは、これまで見たこともない荒涼とした光景の中に立っていた。空は鉛色に淀み、太陽の光は届かず、地面からは時折、不気味な紫色のガスが吹き出している。
「ここが、お前の新しい居場所だ」
ヴァルカンの声が、ライオネルの耳に響く。視線を上げると、遠くに巨大な城がそびえ立っていた。それは、この世の建造物とは思えないほど異様で、黒い尖塔は不規則な角度で空を突き刺し、無数の骨が飾りつけのように張り付いていた。これが、ヴァルカンの居城――魔王の城だった。
城門には番兵らしき姿はなく、代わりに巨大な骸骨が両側に立っていた。ライオネルが警戒するのも構わず、ヴァルカンは平然と門をくぐり抜ける。ライオネルは意を決し、その後を追った。
城内もまた、外観と同じく禍々しい雰囲気を放っていた。壁には奇怪な模様が刻まれ、松明の明かりが揺れるたびに、その影が生きているかのように蠢く。ライオネルは雷の力を高め、いつでも戦えるように身構えた。
「心配するな。お前は客だ。私の弟子となる、大切な客人だ」
ヴァルカンは、ライオネルの緊張を見抜いたかのように言った。
「この城の住人たちは、人間を好まぬ者ばかり。だが、神を憎む者には寛容だ。お前はここでは異端者ではない。ただの……復讐を誓った人間だ」
そう言いながら、ヴァルカンはライオネルを最奥の広間へと導いた。そこは謁見の間だろうか、荘厳な玉座が鎮座していた。ライオネルはヴァルカンがそこに座るものだと思っていたが、彼は玉座の前で立ち止まると、ゆっくりと振り返った。
「お前の復讐を果たすためには、まず己を知らねばならぬ。お前の力は、まだお前の心と繋がっていない。この城で、お前は力の本質を学ぶのだ。そして、その雷を、神を打ち砕くための力へと昇華させよ」
ヴァルカンは玉座に座ることなく、ただライオネルを見つめていた。その瞳の奥に、ライオネルは底知れぬ深淵を見た。彼は本当に、自分の復讐を助けるためだけに、この世界にいるのだろうか。
疑念は拭えない。
しかし、彼の言葉はライオネルの心に強く響いた。神を打つ力。その言葉こそ、今ライオネルが何よりも求めているものだった。
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