神を恨む俺は魔王に弟子入りする。

りい

第1話 雷鳴の異端者

​天が慟哭し、大地が震えた。降り注ぐ雨粒は鉛のように重く、ライオネルの頬を打ち据える。


​追放された身だった。いや、追放されたのは体だけだ。彼の心は、親友の命を奪った神への憎悪に縛り付けられたまま、この街に留まっていた。かつては聖なる光に満ちていたこの街も、今ではライオネルを拒絶するだけの冷たい石塊に過ぎない。


​「神は、全てを知っている……」

​親友セシリアの最期の言葉が、耳の奥でこだます

る。彼女は神を深く信じる、心優しい少女だった。そんな彼女が、なぜ神に殺されなければならなかったのか。


理由を問うたライオネルを、神官たちは嘲笑した。「異端者よ。神の御心に口を挟むな」と。そして、雷を操る彼の力を、不浄なものとして忌み嫌った。


​怒りがこみ上げるたびに、雷が体を駆け巡る。手足の震えは、もはや制御できるものではなかった。ライオネルは、廃墟と化した神殿の跡地へと向かった。そこは、セシリアがよく祈りを捧げていた場所だ。瓦礫の山となった祭壇に立ち、彼は天に向かって叫んだ。

​「神よ! なぜだ! 答えろ!」

​その叫びに呼応するように、空に巨大な雷鳴が轟いた。ライオネルの掌から迸る青白い稲妻は、雲を切り裂き、夜空を眩い光で満たす。それは、彼の心の奥底に燃え盛る怒りの炎だった。


​「その雷は、ただの怒りだ」

​背後から、静かな声が聞こえた。

​振り返ると、一人の男が立っていた。全身を黒いローブに包み、顔の大部分をフードで隠している。だが、そこから覗く瞳は、夜空の闇よりも深く、それでいてどこか楽しげな光を宿していた。


​「神を打つには、あまりに力が足りぬ」

​ヴァルカンと名乗る男は、ライオネルの雷をまるで遊び道具のように眺めていた。ライオネルは警戒し、雷を男に向かって放った。しかし、雷は男の数メートル手前で霧散し、彼の足元に光の粉となって降り注いだ。

​「お前は、この世界の真実を知らぬ。神が作り上げた、欺瞞の真実をな」


​ヴァルカンは一歩、また一歩とライオネルに近づいてくる。ライオネルは後ずさり、その瞳から目が離せなかった。まるで、彼の中に隠された本質を見透かされているようだった。

​「お前の親友は、その一端に触れてしまったのだろう。だからこそ、神に消されたのだ」

​ライオネルの全身から力が抜けた。ヴァルカンの言葉は、彼の心の最も脆い部分を突き刺した。憎悪が、確信に変わる。


​「私の元に来い。その雷を、神を滅ぼすための武器に変えてやる。お前の復讐を、私が手伝ってやろう」

​ヴァルカンは手を差し出した。その手は、冷たい夜風の中でも、なぜか熱を帯びているように感じられた。ライオネルは差し出された手を見つめる。それは、絶望に打ちひしがれた彼の人生において、初めて現れた、復讐への道標だった。



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