5、あし

 これは、知り合いのAさんがしてくれた本当の話です。


 Aさんは子どものころ、大きな手術を受けました。

 大人になってからも重い病気をし、今も治療を続けています。

 言ってしまえば、ずっと“生死の境目”のようなところで生きてきた人です。

 そのせいなのか、Aさんは小さいころからよく「幽霊が見える」と言います。

 怖い体験もたくさんしているようですが、ある日、Aさんはこんな“ちょっと変な”話をしてくれました。


「タキシードの カマーバンド って知ってる? 黒い腹巻みたいなやつ。

 あのね……そのカマーバンドから下だけの足が、

 タッタッタッて軽い足音を立てて、走り去っていくのを見たことがあるんだよ」


 最初は笑い話みたいでした。

 でも、Aさんは言い終わったあと、急に真面目な顔になりました。

「怖くないでしょ?でもね、あの足、ときどきこっちに向かってくるんだ」


 そう言われた瞬間、背中がひやりとした。

 “走っていく足”は、本当にどこへ向かっているのだろうか──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実話怪談 じつわね……(小学生向け) @ratitami27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る