エピローグ

肌を焦がすような日差しの中、近代文明最大の開発であろうエアコンの風を顔面で受け止めながら私は車に揺られていた。


「あんた、ひいばあちゃんのお墓参りは渋る癖にお盆のこの時期には必ずついてくる  

 のね」

「だって大ばあちゃんいじわるばっかり言ってきてたし~」


大ばあちゃんは、小さいころすでに認知症であったため私を孫だと認識できていなかったのもあって、「こまいのが紛れ込んどりゃ、ひもじいんでも盗みはいけねぇ」とかなんとか言って、お菓子食べてる私を家から叩き出したのだって一度や二度じゃきかない。流石に今では認知症の症状だって理解はできるけれど、それでも感情は残る。ママはそれを分かってていつもこれ以上言ってこない。


「それに!お兄さんは命の恩人だから参らなきゃ失礼でしょ~!

 ほら私って良い子っ!」

「都合の、良い子ね~」


ママと笑いながらあの日のことを思い出していた。

6年前、小学校からの帰宅途中だった私は気づけば病院のベッドの上にいた。

後々ママから、工事現場の鉄骨が落ちてきてて潰されるところだったと聞いた時のことを鮮明に覚えている。

ニュースでは報道されていなかったが、お父さんが酔って帰ってきたときにぽつりと零していたことをきっかけに、この命が救われたものだと知った。


「お兄さんってどんな人だったんだろうね!」

「さぁ?」

「...ねぇ~、ママは興味ないの?命懸けで助けるような人だよ!?」

「あんまり興味持ってほしくないかな」

「なんでよ!すごい人じゃん」

「そうよ、娘の恩人だもの。尊敬もしているし感謝もしてる。

 けど、自分の子供に歩んでほしくない道かも」

「ふーん?」


むすっと膨れながら車を降りて、道具一式を持つ。

墓石が並ぶ細い道を通り、いつもの場所へと着く。


線香を炊き、お墓の前でしゃがみこむ。お父さんが言っていたけど、このお墓には骨のない壺が納められているらしい。それでも気持ちさえ届ければ良いので些末な事だと思う。手を合わせながら感謝とこれからの未来の話をする。

ひとしきり終わると、少し離れて私を待っていたママが、いこっかと促してくる。

それに抗うように立ち止まる私に怪訝そうな顔を向けてくるママに言う。


「でもさ、やっぱり私もこう生きていけたらなって思うよ」


お兄さんのお墓には、ビールやお菓子を始めとした食べ物、集合写真や感謝が綴られている手紙までそれは沢山のもので埋め尽くされている。

この供え物の数々が、これまで救ってきた人数を明確に示していると同時に、

死んでから6年経ったにも関わらず彼に感謝している人数でもある。

生きている間も死んだ後も彼のしてきたことは残る。色濃く。私を染めたみたいに。


彼が実際のところ善人なのか悪人なのか、腹の中に何か抱えていたのかは知る余地もない。けれど、私が「優しいお兄さん」そう決めたからそれで良いのだ。

私もそう人に決められるような生き方がしたい。

それはきっと素敵な人生だと思うから。





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死神とて なめたけ @subaru_0921

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