銀の魔王と鳥籠の姫

色葉充音

プロローグ 光をも統べる夜の王

プロローグ 光をも統べる夜の王

「初めまして、リーティル。私の名はアルテヴァラエ、魔族の世界マグス・ムンドゥスを制する魔王です」


 十七歳最後の夜、わたしの部屋のバルコニーへふわりと降り立ったのは、銀の瞳を優しく細めた魔王陛下だった。


 優雅にお辞儀をした彼が頭を上げると同時に、その長い黒髪がさらりと揺れる。

 わたしたち聖族せいぞくとは違う、魔族まぞく特有の尖った耳に髪をかける仕草でさえ、まるで一つの絵画のようだ。


 透き通るような肌、美しく弧を描く唇、左右対称の眉に、すっと通った鼻と輪郭。にこりと笑ってこちらへと近づいてくる魔王陛下は、何の非のつけどころもないほどに整った顔の作りをしている。


 光をも統べる夜の王。大きく輝く満月すら霞んでしまう彼には、正しくそれが相応しい。


 離れたところにいると思っていた魔王陛下は、気づけば手を伸ばせば届く距離にいた。


 ……この雰囲気に呑まれてはいけない。


 目の前のこの人はわたしたち聖族の味方とは限らないのだから。指の先まで意識を巡らせ手を体の横に広げ、右足を後ろに下げる。ゆっくりと膝を曲げ、頭を下げた。


「お初にお目にかかります、魔王陛下。リーティル・ウェルディライツと申します。何かわたしに……いえ、聖族の世界サンク・ムンドゥスにご用でしょうか?」


 すると、小さく微笑む気配がした。

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