第55話 仕組まれた大地震―実験の幕開け―


10月23日、21:48 東京湾岸海洋地震 M9.2

郊外の長老御前会議の場から始まり――東京湾岸で発生した大地震。


それはただの天災ではなく、“実験”の幕開けだった。


———


郊外・長老御前会議の場


ホログラムに五人の長老が並んでいた。


「そろそろだ」

時計を見た青年が、モニターに視線を向ける。


「お待たせしましたな。ご機嫌よう」

「なんだその顔は。だいぶ老けて見えるぞ。五十代くらいか」

「新薬を試している。もう十カ月は飲んでいない。しかし、やはり加齢は徐々に進む」

「実際は幾つになるのか」

「私は今年で百十七歳だ」

「ご長寿、なによりですわ」


そのとき、執事に押されて車椅子の老人が入室し、テーブル中央に座ると、皆の口が一斉に閉じた。


もう一つのモニターには各国からの参加者が映し出され、中央銀行デジタル貨幣のチャートが並んでいる。


「青梅センター、東雲大佐と繋がりました」


「東雲です。現在、最新型ヒューマンアンドロイド六体にて、コクーンでの活動状況をテスト中です。加えて、テロリスト想定の三名を用意しました」


カメラがブルーホライゾンのコクーン群を映す。


「回天か。虫の卵のようで不気味じゃわい」

「テロリスト役が三人とも有名人とはな」


「前回の誘拐未遂事件で狙われた三人です。医療用LAX7、監視員体内から強力な下剤を検出。そのタイミングで、彼らはコクーンから誘拐されました」


「なるほど、内部に反乱者がいる。ということか」

「ほう、ネズミ三匹のおにごっこか。面白い」

「私はセレスティアが好きなのに。残念だわ」


「今回、兵士への指示は殺害ではなく捕獲です。脳処理を施し、選手として残すか、サイバー兵士とするか。裏切りの疑いが晴れれば、今まで通りです」


「ならば首相に、葉っぱをかけろ。

全ての準備は整った。赤っ恥をかかせるなよ」



首相官邸

「首相、御前会議から通信が入りました。

“全ての準備が整った。ご活躍を期待している”――とのお言葉です」

「はい。心しております」

「忙しくなりますな」

「今晩は徹夜だ」


ノックの音。

「大変です。モニターをご覧ください!地震です、首相!」

「非常事態宣言だ!」



21:48 東京湾岸海洋地震 M9.2


大地がうねるように揺れ、抜けるような地響きが轟いた。


ガラガラッ! ガシャン! ゴゴゴゴゴ……。


立つこともできないほどの揺れの中、祐也、タケル、アオイはコクーンで対戦訓練の最中だった。


室内のライトが消え、コクーンも停止する。


「何だ! 閉じ込められたぞ!」

ガンガンガン! バリバリッ!


「よし、出られた!」

「タケル、相変わらずすげーな」

「アオイは?」

「あそこで倒れているコクーンだ」

「開けろ! 祐也、何か道具を持ってこい!」


スプリンクラーが作動し、室内は水浸しとなる。


「大丈夫か」

「ああ、何とか」

「地震か?」

「みたいだな。……上に上がってみるか」


アオイの顔が歪む。

「つうっ!腕が折れたみたいだ。部屋に戻ってブレスレットを取ってくる。二人は逃げ道を探せ!」

「配送倉庫から出られるかもしれない」


その時、声が飛ぶ。


「アオイ様! 大丈夫ですか!」

「アキラ! メムとトレーシーは?」

「呼んできます!」


「警備員が来る、逃げろ!」


祐也はブレスレットのスイッチを入れた。

「祐也だ、ロン! 聞こえるか!」

「ロンだ。食品庫まで逃げろ」

「よし、わかった」


「紫音、電源は繋がるか!」

「はい。大丈夫です」

「車を出します。彼らを助けましょう」

「俺も行く!」ジンが手を挙げる。

「では、2台車を出す。千斗オマエも後に続け!」

「任せろよ!」



長老たちは興奮し、モニターを覗き込む。


「始まりましたな」

「さすがアイアンウォード。コクーンをぶち破るとは」

「あれは高いんだぞ」


会場に笑いが広がる。


「ご覧なさい、アークブレイブも出てきた」

「セレスティアは生きてるかしら? コクーンの下敷きだわ」


「――東雲大佐です。兵士を放ちました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る