第5話 音楽が好き。
私は音楽が好きだ。
基本は聴く専門。何の楽器も出来ない。学んだ事も無かった。
だけど音楽無しでは生きられない。
ラジオやテレビの雑音が苦手だ。
いつからかポータブルCDプレイヤーが必需品だった。家の中でも、高校はバス通学だったのでバスの中でもずっとイヤホンを付けていた。高校3年の3学期。私は受験のため東京に行った。もちろん、東京芸大を受けるためだ。大学生の先輩の家に間借りして、電車で美術の予備校に通った。その時もやはりイヤホンをしていたな。中学の記憶ではすでに兄達からこっそり拝借したCDを聴いていたのを覚えている。あれ?カセットウォークマンって何時だった?ちなみに今はiPhone。
車の運転中、好きな音楽が流れていないと気が狂いそうになる。何故かはわかりませんが。
田舎住みは車社会で、車が無くては、仕事も買い物も基本、難しい。公共交通機関が完全に衰退しているのだ。だから車は生活必需品。
これは私にとってはとても良い要素である。
何故なら、不特定多数の人が乗り合わせる公共交通機関は結構な恐怖だからだ。
旅行先で乗るのはまた別だし、運転しなくて良いと言う利点(運転は中々神経を使う)を考慮しても、毎日バスや電車に乗るのは、辛い。
自転車で良いじゃないかと、声が聞こえて来そうだが、田舎で片道1時間くらい自転車で通勤していたら、職場に着く頃にはもう仕事が出来ない状態になる。体力的に無理。夏には倒れる自信がある。
やった事が無い、訳ではない。
18歳の頃1年間、片道6kmの通勤をしていた。
山際に住んでいるため、冬は特に、日が落ちるのが早く、夜は真っ暗な中走るので、田んぼに落ちたり、段差で転けたり。。。引っ越すか、車買うか。
そして、車に乗り始めた。
あの時、家から出ていれば。と思う分岐点がいくつかあるが、ここはそれには入らない。
いや、正確に言えば、一度家から出た。
19歳の1年間。そして戻ってきた。
戻って来たらすぐ、自動車教習所に放り込まれた。
免許が取れると直ぐに、兄の車をローン事貰い受けた。でも、それで良いと思っていた。車がもたらしたものは、私にとってある意味、自由、と言える。
行動範囲が拡大したからだ。
自転車通勤の18歳の1年は本当に職場と家の往復。
少し余裕がある時はバスで美術館に行ったりしていたが、ほとんど家にいて、高校生気分が抜けないままで、油絵の具やアクリル木炭鉛筆。。。高校の校舎から持って帰って来たモノをそのまま部屋に押し込めて、ごみの中で、創作している気に、なっていた。実際には、作品になった物がほぼ無い。と言う現実。
ごみ、と言った物達は、何かに使えるかも!と思って集めたガラクタ。網とか石とか布とか板他。
これらはこの後数年、増え続けるのだが。
兎に角、行動範囲が広がる事はそのまま、自分の世界が広がる事に直結しているように思えた。
そうして広がった所で出会ったのが、今に繋がる、ジャズ喫茶n。
高校が美術科と音楽科だけの芸術高校だったので、生の音というのが3年間とても身近だった。
それがどれだけ貴重な環境だったのか、卒業して知る。ついでに高校時代、音楽科ばかりの合唱部に所属していた。楽譜が読めないのは私だけだった。一緒に入っていた美術科の友人が一人だけいて、美術科は2人だったのだが、その美術科の友人は楽譜が読める子だった。絵も歌も上手でおしゃれで賢くて。憧れの子だった。自分の劣等感が卒業後その子との距離を遠くしてしまったが。私の中で大切な友人である事は変わっていない。合唱部で歌を歌う時はいつも彼女が隣にいたのだから。
卒業した実感のないまま、学校から追い出されて、初めて見る外の世界。
社会に出て、アルバイトで働くという事。
全てが一変した。
まず、東京から戻って来たら、帰る家が変わっていた。実家が引っ越していたのだ。話しには聞いていたが、図面見せられたような気はするが。。。
頭では、働いて自分のアトリエもつぞー!(でもどうやって?)というモードが始まっていたけれど、心の中は、高校に置いて来たままで、あの制服を着られない生活に戸惑い理解できずにいたのかもしれない。
その中でも一際大きな願望があった。
音楽が、生の音が聴きたいという願望。
同じバイト先で出会った、医大生のファンキーな格好のかわいい女の子が、ジャズ研と言うサークルなどというものでトランペットを吹いており、セッションというものがあると教えてくれたのだ。
そしてついて行った先がジャズ喫茶n。
その後20年近く、通う事になる。
そして、かっこいいジャズヴォーカリストに出会った。今から4年前くらいだった。
今の私の師匠である。
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