第2話 合宿勢と合流するはずが……

 サークルではいつもアカウント名で呼び合っていた。だからヤマザキ君はカタカナのヤマザキで、俺は漢字の和馬だった。ヤマザキ君の名前が基彦だという事を今回初めて知った。

 基彦の家に泊まらせてもらった。寝袋を貸してくれた。夏だし充分だった。

 翌日の7月31日は、急に基彦が大学でやる事があるとかで一緒に観光できないと言った。夜に合流する約束をして、俺は一人で観光する事にした。

 今治タオル美術館ではタオルについて学び、すごく気持ちの良いタオルを2本買った。松山城では暑い中すごい坂を上ったが、伊予柑味のソフトクリームが美味しかった。

 夜になって基彦と待ち合わせ、かの有名な道後温泉に入った。千と千尋の神隠しに出てくる湯屋のモデルになったのがこの古い温泉だとか。そして2人で食べた鯛めしはかなり美味しかった。

 さて、いよいよ合宿へと合流だ。と思ったら、なんと基彦は合宿に行かないと言い出した。

「やっぱさ、交通費が掛かり過ぎるなあと思ったんだよね。俺はこのまま大阪の実家に行くから、途中まで一緒に行こう。」

そう言われたので仕方がない。荷物をまとめ、一緒に夜行バスに乗り込んだ。

 夜行バスは眠って乗って行く事が前提だから、車内の電気も消えている。だが、ほとんど眠れなかった。椅子をリクライニングしているのだが、狭くて寝返りも打てないし。こういう所でもすやすや眠れる人が心底羨ましい。


 夜の11時頃松山を出発したバスは、途中基彦らを大阪で下ろし、朝7時40分頃に京都駅前に着いた。基彦と別れる時、眠っている他の客の手前あまり声も出せず、薄暗い中軽く手を振って別れた。

 京都駅から新幹線に乗り名古屋へ。そして名古屋駅から特急しなの長野行きに乗り込んだ。出発が遅れ、合宿メンバーが乗って来るバスとの合流時間にギリギリの時間になった。

 ノートパソコンを出し、合流するバスの位置情報を確認しながら乗っていた。なんとか間に合いそうだ。松本駅で下車し、バスとの合流地点でバスを待った。

 ふと、気づいて愕然とした。俺、スーツケースどうした?キョロキョロと回りを振り返るも、俺のスーツケースがない。リュックを背負い、手にノートパソコンを持っている俺。

 うわー!やばい、特急の中にスーツケースを忘れてきた。座席の後ろに置いておいて、すっかり忘れてそのまま下車してしまったのだ。

 バスに合流している場合ではない。松本駅にいる駅員さんを捕まえて、

「すみません、今乗って来た特急に荷物を置き忘れてしまったんですけど!」

と訴えた。

「まだ終点に着いてないと思うから、次の列車で終点まで行ってください。」

駅員さんにそう言われ、1時間後の次の特急に乗る為に切符を買った。よよよ。2千3百円もするよ。

“―そういう事なんで、俺をピックアップせずに合宿所に向かっちゃってください”

サークル仲間には連絡を入れ、しばらく松本駅で列車を待った。やっと来た特急列車に乗り、約1時間で終点の長野駅に着いた。改札口にいる駅員さんに説明すると、既に松本駅から連絡があったようで、俺のスーツケースは無事に戻ってきた。ああよかった。このスーツケースは中身ももちろん大事なのだが、外側が重要だった。それは真っ白な新品だったから。実は母が買ったばかりの小さい白いスーツケースを、母が使う前に借りてきたのだ。失くしたら全額負担の弁償確実だった。

「中身を一応確認してください。」

そう言われて、端っこに行ってスーツケースを開け、洋服などがある事を確認した。大したものは入っていないのだ。

 さて、松本に戻るとしよう。今度は鈍行に乗る事にした。すると1時間15分ほどかかった。更に松本駅から簗場(やなば)駅へ。こっちも1時間20分くらいかかった。

 やっと合宿所の最寄り駅である簗場駅に着いたのが15時半過ぎだった。

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