夏のスキー場には何かが出る
夏目碧央
第1話 合宿の前に
「ギヤー、助けてー!何で俺がこんな目にー!」
立ち止まったら終わりだ。俺は信じられないほどの急坂を、スーツケースを引っ張りながら猛ダッシュで上り続けた。ただし、あまりスピードは出ていなかったが。
2日前。ゲーム製作サークルの合宿に参加する前に、愛媛に住んでいる友達の家に遊びに行く為、新幹線に乗った。前日の夜、
「お宅にお邪魔するなら手土産を持って行った方がいいわよ。」
と母親に言われ、品川駅で「東京ばな奈」を買って新幹線に乗った。
岡山駅で新幹線から特急に乗り換え、瀬戸大橋を渡って高松へ入った。ここでサークル仲間のヤマザキ君と待ち合わせをしている。
大学に入った頃、爆発的な感染症の蔓延で、サークルはおろか大学にも通えなくなった。そんな時、オンラインで活動をするサークルを見つけた。それがこのゲーム製作サークルだ。様々な大学の人が入っていて、それこそ様々な場所に住んでいるメンバーで構成されていた。
やっと感染症も落ち着いてきた今年、初めてサークル合宿が組まれた。場所は長野県白馬村にあるスキー場だ。しかし今は夏なので、オフシーズンというわけだ。
サークルはずっとオンラインによる活動だったので、実際に会った事のあるメンバーは今の所いない。俺は東京に住んでいるのだが、サークル内でよく一緒にゲームを作っていたヤマザキ君は愛媛に住んでいる。松山市の大学に通っていて、独り暮らしをしているそうだ。出身は大阪だとか。俺とは全然離れていて、物理的には全く接点のない2人なのに、こうやってオンラインで仲良くなったというのは不思議だ。
合宿の話になった時、ヤマザキ君が言ったのだ。合宿に行く前にうちに来ないかと。自分もまだあまり観光していないから、一緒に四国を観光して、それから一緒に合宿に行こうと。
面白そうだ。俺はすぐに話に乗った。それで7月30日の朝、新幹線で四国へと向かったのだ。
高松駅前でヤマザキ君と合流した。画面ではもう2年以上顔を合わせている間柄だが、本物を見たのは初めてだった。お互いに。
「やー、和馬くん。よく来たね。」
いつも通りのヤマザキ君の声だった。
「ヤマザキ君!」
「そうだ、俺の事は“もとひこ”って呼んでよ。基本の基に彦根の彦だから。」
「うん、わかった。基彦って呼べばいいんだね?」
2人でレンタカーを借りた。俺はペーパードライバーのようなものだが、それでも走りやすい道なので運転は楽しかった。2人は交代で運転した。しまなみ海道を爆走すると、安いレンタカーはブレーキがキーキー言った。大鳥居のある展望台では夕景がとっても美しかった。俺はあまり美しさに感動する事はないのだが、この時ばかりは息を呑んだ。
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