第2話 「微笑みの悪役令嬢」

 「……セリシア・ロザリンド嬢。この場をもって、君との婚約は破棄する」


 __その瞬間、胸の奥がじんわりと痛んだ。

 胸の奥に流れ込んできたのは、前世の私ではない、セリシアの感情。


『……そう。わかってた、こんな日が来るって』


 でも、私は__彼女の痛みを受け止めた。

 だからこそ、微笑んだ。


 「……そうですか」

(痛い。でも、私はあなたのことを幸せにするって決めたから)


 「わかりました。その婚約破棄、受け入れます」

 口角を上げたその微笑みは、凛としていて__


「なんて……綺麗なんだ……」

 __その場にいた誰かがそう呟いたのが聞こえた。


(え……なにあの顔。今日の主役はリリアのはずなのに……!?)


 アルベルト様の隣に並んで立つ彼女はリリア・ハーヴェイ。

 元々平民として育った彼女は家庭の事情とやらで最近ハーヴェイ伯爵になったとか。この国の第一王子のアルベルト様に一目惚れして猛アプローチしてたとか...。



 「……っ、なんだ……?セシリアのこんな顔、見たことない……っ」

 (でも、きっとこれはただの強がりだ。俺は間違ってない……!

 リリアこそが__)


 セシリアは本当にアルベルト様を慕っていたのだろう。

 小説を読んでいても伝わってきた。

 元々、アルベルト様もセシリアのことが好きだったはずなのに...



 ざわざわ……


 その場が、静かにどよめいた。

 だが__その中、ただ一人、別の感情を抱く男がいた。

 


「面白い……」

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