悲恋の騎士と姫が転生したら男子高校生だったんだが、姫は俺を落とす気満々だ
つぐみもり
第一部 翠河の国の姫は押しが強い
第一話 業火の約束
その日の朝、俺はクラス一のイケメンに壁際へ追い詰められていた。
全力で逃げたはずなのに、肩で息をする俺に比べて、奴は涼しい顔をしている。基礎体力が違う。
壁に背をあずけた俺の顔の両側に、奴は手をついて、顔を近づけてくる。いわゆる壁ドンだ。
しかし、顔が近い。間近で見てもイケメンだ。生まれつきなのか染めているのか知らないが、日に透ける茶髪と黒い目をしている。一瞬、目の光彩が緑に見えた。
「見つけたぞ、私の騎士。お前が見つけてくれるのではなかったのか?」
「イイエナンノコトカワカリマセン」
これもきっと、今朝見たあの妙な夢の所為に違いない。
***
炎の燃え上がる、ごおごおという音が響いている。
城の謁見の間の、壇上の玉座は無惨に横倒しになっていた。
絨毯は賊の血に塗れ、元の鮮やかな緋色から赤黒い色に染まっている。
腕の中に抱くのは、ついぞ触れることなど叶わぬと思っていた、主君たる姫君の細い体躯だった。
射干玉の黒髪は縺れて白い面を半ば覆っており、稀有なる翠玉の瞳は開くことはない。
喉元に血の味がせりあがってくる。
肩口から腕にかけて滴り落ちる血で手を滑らせてしまわぬよう、姫君のドレスを掴みなおした。
自分も、そう長くは持たないだろう。
次第に色を失っていく美しいひとの唇に触れようとして、躊躇った。
主君の許しなしに触れていい場所ではない。せめてこれだけは許されたいと、青白い頬に触れた。
頭上で梁が崩れ始める音を聞いた。
せめて姫君の玉体が敵の慰み物にならぬよう、しっかりと抱きしめた。
「生まれ変わっても、きっと貴女を見つけ、お守りします」
次の瞬間、轟音とともに、広間を支えた梁が二人の上へと落下した。
***
「何か、中二病っぽい夢だったな」
それか、ゲームの世界か。
崩れゆく城の中で共に命を終える騎士と、主君の姫。
最近似たようなゲームかラノベでも見ただろうかと思ったが、心当たりはなかった。
朝、登校して教室に入るまでは。
高校の教室の、後ろの扉から気配を消して入る。
教室の教壇側にはクラスのヒエラルキーが上のグループ、陽キャ集団が騒いでいるので、避けた。
手刀で人ごみをかき分けながら、窓際の席に座る陰キャ友達に軽く挨拶して鞄を机に置いた。
「
突然俺に声をかけてきたのは、陽キャ集団の中心人物の
一瞬、教室内が静まり返る。
何故、と思う間もなく、俺は気付いてしまった。
奴は『姫』だ。
認識するより早く、俺は教室を飛び出し逃げていた。
「町上! 町上
名前を呼ぶな、目立つ。
俺は目立つことが大嫌いなんだ。平穏な生活を送るのが目標なんだ。
上へ逃げるのは悪手だ。下へ下へと階段を下りる。登ってくる生徒たちにぶつかって謝りながら一階までたどり着くと、体育館への外廊下へ飛び出した。
「待て! 逃げるなよ!」
そこで追いつかれた。どれだけ足が速いんだ陽キャは!
肩を掴まれ、ひっくり返されると体育館の外壁に押し付けられた。
そこで、最初の状況に戻る。
「俺を見て顔色を変えたってことは、思い出したんだろう?」
「そっちが追いかけてくるから逃げたんだろう……」
膝から力が抜けて、ずるずると地面にへたり込んだ。
「そろそろ思い出したかと思ったのに、残念だ」
そうだ、このまま諦めてくれ。そうすれば平穏な生活に戻れる。
「思い出すまで、付きっきりでいてやろう」
そうだ、前世でもこういう強引なところがある姫だった。
次の更新予定
2026年1月11日 08:00
悲恋の騎士と姫が転生したら男子高校生だったんだが、姫は俺を落とす気満々だ つぐみもり @rondopiccolo
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