23 一線を越えた結衣 イジメの代償

 翌日、千剣破の提案で「至高プランv2」の作成の時間になった。完成すると例によって剣奈、白蛇は頭から煙を出して寝込んだ。玉藻は再び散歩に出かけた。


 ――――その頃


 剣奈をイジメる四人組が井の頭公園の池の前で一堂に会していた。

 

「ねぇ!剣奈を呼び出すわよ!」イジメリーダーの桜井結衣が提案した。

「えっ?」森七海がビックリして返答した。

「あいつ調子に乗ってやがるからさ。ちょっと動画撮ってやろうよ」結衣が言った。


 父親から剣奈には手を出すなと明言された結衣である。それまで手をあげたことがなかった父親に頬をぶたれた結衣である。

 父健司の懇願は……、最悪の形で無視された。


 高瀬彩花、森七海、椎名真由の三人は顔を見合わせた。


「あ、そ、その……えっと……やめとく……」彩花が言った。

「あたしも……」七海が続いた。

「ごめん……もう……剣奈イジメやめる」真由も続けた。

 

「え?」


 結衣が唖然として言った。


「「「剣奈イジメ、もう辞める!」」」


 三人の声がそろった。


「はぁ?お前の好きな蒼真に剣奈は色目使ってやがったじゃねえか。ムカつくんだろ?二度と色目使えないように恥ずかしい動画撮ってやろうぜ」


 結衣が彩花に言った。


「い、いや、あれ、アタシの勘違いだった。だからもういい」


 彩花が即座に言い返した。


 「「「じゃ、じゃあね」」」


 タタタタタッ。


 三人は顔を見合わせて一斉に駆け出した。


「はぁ?なんだっていうんだよ!パパも!アイツラも!」


 結衣が地団太を踏んだ。


「じゃあいいよ。うち一人でやる。徹底的にやってやる」


 結衣がニヤリといやらしい笑みを浮かべた。スマホを取り出して電話をかけた。

 

 プルルルルル


「はい。須藤」


 須藤が電話に出た。須藤は元暴走族リーダーで、若い頃には傷害や脅迫の前科があった。須藤の汚れ役を一手に引き受けていた。いざというときの結衣のボディガードでもあった。


「須藤、お願いがあるの」結衣が言った。

「はい。お嬢。なんでしょう」須藤が返した。

「わたし……イジメられてるんだよね」結衣がつらそうに涙声を出した。

「それはいけませんね」須藤は嘘だとわかりつつ話を合わせた。

「だからね……あたしをイジメてる子をやっつけてほしいの」結衣が声を震わせた。

「わかりましたお嬢。その子の名前はなんでしょう」須藤が聞いた。

「剣奈。久志本剣奈っていう生意気な奴」結衣が忌々しく吐き捨てた。

 

「……お嬢、いい加減にしませんか?社長からその子へのイジメは一切手を引くようにって、言われたんじゃなかったんですかい?」


 結衣が真っ赤になった。嘘と演技がすっかりバレていたのである。怒りと恥ずかしさで結衣の頭に血が上った。


「もういい!あんたなんかに頼ったのが間違いだった!」


 ピッ


 結衣が一方的に通話を切った。


「まったくもう!どいつもこいつも!」


 結衣がスマホを叩きつけようとした。そして……思い出した……。須藤に連れられて一緒に食事をしたならず者を。


 黒田龍成(二十八歳)、身長百八十三cm、体重八十八kg。がっしりした筋肉質で肩幅が広い巨漢である。龍成は吉祥寺界隈のワルのリーダー格だった。

 龍成は体格も態度も大きかった。黙っていても存在感のある男だった。吉祥寺で少しでも不良仲間と縁があるもので黒田の名前を知らない者はいなかった。

 それほどまでに黒田の武勇伝が広まっていた。キレると何をしでかすかわからないと言われていた。

 

 しかし龍成は須藤剛志には従順だった。龍成が暴走族相手に喧嘩を売って半殺しにされていた時、須藤によって救われたからである。以来、龍成は須藤を兄貴と慕っていたのである。

 イジメ三人組は結衣と半グレ龍成の関係を知らずに喧嘩を売ったわけである。


 結衣はいやらしい微笑を顔に浮かべた。そしていざというときのために須藤から知らされていた電話番号を押した。


 プルルルルル


「はい。龍成」

「あ、もしもし。わたし」

「お嬢?どうなさいました?」

「あ、あのさ、レイプ案件頼みたいんだけど……」

「それはまた。ただ事じゃありませんね」

「わたし、そいつにいじめられてるんだよね。この前なんか服脱がされて動画とられそうになってさ」

「それはたちが悪いですね」

「だからさ。もうそんな目に会いたくなくて……脅しの動画撮ってほしいの……。あ。そいつマジ美少女だから!めちゃくちゃにして?」

「めちゃくちゃ?いいんですかい?」

 

「いいから!」


 結衣が大声で叫んだ。


 ピシッ


 ……そのとき


 空間が裂けた。


 結衣の足元で。


 そして……

 

 チクッ


「痛っ!」


 ドサッ!


「娘よ。そなたは一線を越えた」


 倒れた結衣の足元から声が聞こえた。


「お嬢!お嬢!」


 龍成が叫び続けた。


 ――――


 桜井結衣は足首を噛まれて意識不明の重体に陥った。医者は原因不明の毒で治療法がないと頭を抱えた。


 井の頭公園での危険生物による少女への危害事件である。当然マスコミが大騒ぎするはず……である……通常なら…… 

 しかし不思議とマスコミは静かだった。父の桜井健司も、母の郁子も何も語らなかった。

 

 不思議なことに桜井テクノ・イノベーションは総務庁プロジェクトへの一般入札参加を許可された。

 理由は、除外は不公平だからと説明された。しかし健司は一連の出来事の背景に大きな闇を感じていた。


(あの娘には一切手を出してはならない)


 そんな無言の圧力を健司はひしひしと感じていた……


 ――――


 桜井結衣はひっそりと転校した。「家の都合で」としか理由は語られなかった。


 結衣に注がれた毒は致死性のものではなかった。しかし結衣は……それから一年間眠り続けることになる……。

 

 一年後、彼女が目を覚ました時、結衣は小学校三年生の時の記憶をすべて失くしていた。


 剣奈という転校生がいたことも……、

井の頭公園でナニカに足首を噛まれたことも……、彼女の記憶にはまったく残っていなかったのである。


 結衣の足元にあらわれたものの存在……その事実は……闇に葬られた……

 

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