第6部-第108章 広がるつながり
母にストールを贈った翌週、浩一は再び施設での仕事に出ていた。
夏の暑さも和らぎ、子どもたちの声が外に響き渡る。
片付けをしていると、近所の女性が声をかけてきた。
「浩一さん、この前の夏祭りでは本当に助かりましたね。子どもたちも“焼きそばのおじさん”って喜んでましたよ」
「そ、そうですか……」
顔が赤くなる。だが、心の奥ではじんわりと嬉しさが広がっていた。
女性は少し間を置いてから言った。
「実はね、来月に地域の防災訓練があるんです。人手が足りなくて……浩一さん、よかったら一緒に手伝っていただけませんか?」
思わず息をのむ。
自分に、また新しい役割が回ってきたのだ。
以前なら「無理です」と断っていた。だが今は違う。
「……はい。俺でよければ、やらせてください」
その答えに女性は笑顔を見せた。
「ありがとうございます! きっとみんな喜びますよ」
訓練の内容を聞きながら、浩一はふと気づいた。
――少しずつ、俺は“地域の一員”として認められているんだ。
五十歳まで自分の殻に閉じこもっていたのに、今では声をかけてもらえる存在になった。
帰り道、空は澄み切った青を見せていた。
「俺、もっと色んな人の役に立てるかもしれない」
心の奥でそう呟いた時、五十歳の人生に、ようやく“希望”が芽吹いた気がした。
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