第4部-第27章 初めての孤独な夜

母が入院して六日目の夜。

 その日は昼から冷たい雨が降り続いていた。

 薄暗い部屋の中、こたつに潜り込みながらスマホをいじっていたが、通知もほとんど来ない。

 テレビをつけても、笑い声や派手な音楽が耳障りに感じて、すぐに消した。


 部屋の静けさは、まるで耳に重くのしかかってくるようだった。

 キッチンの鍋に残っていた煮物は酸っぱい匂いを放ち始め、結局流しに捨てた。

 コンビニに行こうかと思ったが、外は雨と風で、ドアを開ける気力がわかなかった。


 夜八時、雨音だけが響く中で、ふと母がいつもその時間に見ていたドラマを思い出す。

 ソファの同じ場所、同じ毛布、同じ湯飲み。

 そこに母がいないだけで、部屋の温度が数度下がったように感じた。


 九時を過ぎたころ、急に胸がざわつき始めた。

 何もしていないのに心臓が早鐘を打つ。

 理由はわからない。ただ、息が浅くなり、手足が冷えていく。

 無意識にスマホを握り、母に電話をかけそうになったが、「検査中かもしれない」と思い直してやめた。


 十時を過ぎると、家の中の影が濃くなった気がした。

 外から聞こえる車の音や、遠くの犬の吠える声にさえ敏感に反応する。

 「何かあったらどうしよう」という漠然とした不安が、全身を覆っていった。


 深夜零時、眠れないまま布団に入った。

 天井を見つめながら、母が帰ってくる日のことを考えた。

 ――このまま一人で生きるなんて、到底無理だ。

 その結論が、胸の奥で静かに、しかし確実に形を成していった。

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