第2部-第11章 短期バイトの現実
十一月の初め、母がスーパーの求人チラシを差し出した。
「年末だけでもやってみたら? お歳暮の仕分け。短期だし、きっと大丈夫」
短期なら……と浩一は渋々応募した。面接は簡単で、その場で採用が決まった。
初出勤の日、朝の冷たい空気の中、倉庫の前に集まった作業員たちは慣れた様子で談笑している。
浩一はぎこちなく会釈し、軍手をはめた。
「新人さん? よろしくね」
リーダーらしき男性が笑顔で声をかけてくれたが、浩一は「はい」と小さく答えるだけだった。
作業は単純だ。届いた箱を仕分け、ラベルを貼り、配送用の棚に並べる。
最初の一時間はなんとかついていけたが、徐々に体が重くなっていった。
周りの人たちは黙々と手を動かし、時々軽口を叩き合いながらペースを崩さない。
浩一は手順を確認するたびに遅れ、棚の位置を間違えて何度もやり直しをさせられた。
昼休み、倉庫の隅で弁当を食べていると、隣の作業員が話しかけてきた。
「学生さん?」
「いえ……」
その先の会話が続かなかった。相手はすぐに別の人と話し始めた。
周囲の輪に入れないまま、午後の作業が始まる。
三日目には腰の痛みと手首の痺れが出始めた。
帰宅すると、母が「お疲れさま」と笑顔で迎えてくれる。
だが、その言葉に「もうやめたい」という気持ちが膨らむ。
一週間後、リーダーから「ペースが合わないようだから、今日で終わりにしようか」と言われた。
「はい……」と答えるしかなかった。
短期バイトは、予定よりもずっと早く終わった。
再び部屋に戻ると、窓の外には冬の曇り空。
暖房の効いた部屋に座り、テレビをつけると、年末商戦の賑わいを映す映像が流れていた。
――あそこに自分がいることは、もうないだろう。
そう思いながら、浩一は毛布を肩まで引き上げた。
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