第2部-第10章 就職活動の空振り
受験失敗から一か月後、母が新聞の求人欄を広げながら言った。
「とりあえず、働くこと考えないとね」
ページには事務員や配送スタッフ、工場作業員などの募集広告が並んでいる。
「高卒可」と書かれた枠に赤鉛筆で丸がつけられていた。
「面接、行ってみなさい。やってみなきゃわからないよ」
母は明るく言ったが、その目にはかすかな不安が浮かんでいた。
初めての面接は、小さな町工場だった。
作業場の隅で面接官が履歴書をめくり、「浪人してたの?」と聞く。
「はい……」
「うちは体力勝負だよ。大丈夫?」
質問はそれだけで終わり、面接時間は五分もなかった。
結果は数日後に郵送で届いた。「今回はご縁がなかった」という定型文。
二社目はコンビニのアルバイトだった。
面接官は店長らしき中年男性で、「週5入れる?」とだけ確認された。
「……週3くらいなら」
その瞬間、店長の表情が少し曇った。
翌日、「今回は見送らせていただきます」という電話があった。
三社目、四社目も同じだった。
履歴書を書き続けるうちに、自分の空欄だらけの経歴が恥ずかしくなってきた。
面接に行くたび、相手の視線が経歴の短さで止まるのがわかる。
そして面接のたびに、「自分は何も持っていない」という事実が突きつけられた。
春が過ぎ、夏になっても、結果は変わらない。
周りの同級生は新しい制服や作業着を着て働き始め、給料をもらい、休日には遊びに出かけている。
地元の駅前で偶然会った元同級生が、「今、営業やってるんだ」と笑顔で話す。
自分も笑い返したが、その夜は布団の中で何度もその笑顔を思い出した。
「焦らなくていいよ」と母は言ってくれる。
だが、その優しさに甘えれば甘えるほど、外へ出る足は重くなる。
面接に行かない日が続き、やがて求人票を広げることすらやめてしまった。
秋の風が冷たくなったころ、浩一は自分の部屋のカーテンを閉めた。
外の世界は動き続けているのに、自分だけが時間から取り残されていく――そんな感覚が、静かに心を蝕んでいった。
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