突入 - ショートショート

神野 浩正

突入

 その紡錘ぼうすい形宇宙船は、汚染されていた。真空中でも生存可能な病原体によって。宇宙服すら突破して感染するものだった。

 しかも、数千度の高熱にも耐える芽胞がほうを形成し、数万年後でも大気圏突入による生息域拡大が可能である。

 この船の先行調査団が探査した自由浮遊惑星がそのような代物に汚染されていたと知ったのは、恒星間航行に移ってからだった。

 乗組員たちは次々と病原体に感染し、倒れ、死んでいった。

 艦長の下した決断は、恒星に突入してこの宇宙船ごと焼却すること。いかにそのような病原体といえども、恒星の熱と重力には耐えられまい。

 艦長は最寄りの恒星系に目標を定め、その恒星への突入コースを設定し、そして息絶えた。

 自分たちの星だけでなく、未知の生命体をも護るために。


 だが、長い航行時間のあいだに、わずかに軌道がずれてしまった。

 紡錘形宇宙船は恒星をかすめ、その重力で加速し、大きく軌道を曲げて虚空の中へと消えていった。

 次はどこへ行くのか、誰にもわからない。


  *  *  *


 2017年、地球の天文学者らは、太陽系外部から飛来し、そして太陽の重力で軌道を曲げて飛び去る小天体に興奮していた。

 ハーバード大学の高名な天文学者に至っては、地球外文明からの探査機だとまで主張するほどだった。

 観測史上初めて確認された恒星間天体を、彼らはハワイ語で「斥候」を意味する「オウムアムア」と命名した。短い期間の観測データから推定された外形は――紡錘形だった。

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