512号室―黒川

急いで鍵を閉める。……音はしないため、まだ猶予はあるだろう。安心して正面を向くと、自分の部屋が目に入る。これは帰ってこられたのか、現実に。それともまた鍵を……いや、奥にドアがない。

「これで終わり……でいいんだよな」

ホッと息を吐く。さっきのは疲れによる幻覚だろう。

ピンポーン

「……は?」

一瞬時計に目を向けるが、深夜2時。どう考えても宅配ではないし、そうでなかったとしても非常識な時間だ。

インターホンのモニターを覗き込むと、髪を一纏めにした女が映る。

「はい」

『すみませーん、隣に越してきた早乙女という者なんですがー』

妙に間延びした口調だ。

『お渡ししたい物があるのでー、出てきていただけると助かりますー』

「……わかりました」

ガチャ

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