901号室―日下

……悪趣味な部屋だ。同じ漫画がいくつも置いてある棚はピンクで、かと思えばカーテンは蛍光色の黄色と緑という、何とも目が痛くなる色合いをしている。

部屋の奥にはニヤニヤした顔の男が写っている写真があった。地味な服を着た俺もいる。確か、バイト先が同じでよく絡んできたヤツだったか。万引き常習犯の。

……最初よりも探すのが大変ではなかろうか、この部屋。日が暮れるぞ―――いや、もう外は暗い。夜が明ける、の方が自然か。

そういえば、最初の部屋にいたときから軽く3時間は経っているはずだが、窓の外の景色が変わることがないのは何故だろうか。時計がある部屋が1つもなかったので正確な時間は分からないが、少なくとも月の位置は変わっていない。


棚の横に乱雑に置いてある漫画をかき分けて鍵を探していると、角が潰れた分厚めの本が目に入る。懐かしい、アイツにこれを万引きしたとか濡れ衣を着せられたな。店長も店長だ。アイツが万引きしたってわかりきってるくせに―――

ガンッ ガッガッ

―――なんだ、この音は。ドアの方から聞こえてくるが、もしかして誰かが開けようとしているのか。

早くここから出なければ、捕まったら殺される、そんな気がしてくるのが不思議だ。ドアの向こうにいるのが何かもわからないのに。

後ずさると、後ろにあったゴミ箱に足が当たる。カランと乾いた音がしたのでひっくり返すと、大量のゴミと、鍵が出てきた。……流石にゴミ箱に入っているとは思わなかった。探していたのが馬鹿らしくなってくる。

相も変わらず後ろのドアから音がするので、急いでドアに向かう。

ガチャ

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