曲水の宴
堀川花湖
第1話のみ
ソフトクリームみたいな入道雲が空にぽっかり浮かぶある日、亮介に呼び出されたと思ったら、ずいっと一冊の本を突き付けられた。タイトルは、『ばっちり判る! 平安時代の年中行事』というもの。わたしは、はて、と思いつつ、それを受け取る。
亮介は竹製の流しそうめん器を組み立てながら、「それの、一五五頁、三行目」と呟いた。該当する箇所を読めと言うことだろうか。わたしはいわれた通りに、一五五頁の三行目を開いてみる。
「……なにこれ」
思わず呟いた。
そこには、「曲水の宴」という行事を説明する項目があった。読んでみると、こんな感じ。『「曲水の宴」とは、水の流れのある庭園などで、その流れのちかくに参加者が座り、流れてくる酒の入った盃が自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を読んで、盃の中の酒を飲むという、貴族のあいだで行われていた行事です。またの名を、「流觴」ともいいます』。
流しそうめん器を組み立てた亮介は、わたしの手から本を奪い取った。そして、したり顔でいう。
「曲水の宴――要は、元祖飲みゲーってとこ」
まあ、そうでしょうね。
確かに飲みゲー要素はあるわ。
亮介は氷水とコーラが入ったバケツを持ってくると、それを流しそうめん器のそばに置いた。
「いまからおれは、それをコーラで代用してやってみようと思う」
亮介はそういうと、小さなグラスを取り出し、そこへコーラを注いだ。
流しそうめん器の上流にそれをセットし、七夕のイベントでよく見るような短冊と、コンビニの筆ペンを手に取る。
「ほっ!」
亮介が流しそうめん器のスイッチを押した。
ぎゅわーんと動く流しそうめん器。
コーラの入ったグラスが、さらさらと流れていく。
それとほぼ同時に、亮介が筆ペンを必死で走らせる。
あっとういう間にグラスは流れていき、亮介の前を通り過ぎた。
わたしは、気乗りしないが、いちおうきいてみる。
「……どんなのが詠めたの?」
亮介は無表情で、短冊をわたしに突きつけた。
わたしはそれを、ゆっくりと読み上げる。
「『暑すぎる めちゃくちゃ暑い夏の日に コーラ飲みたいキンキンのやつ』」
素人のわたしでも判る――なんて、雑な作品だ!
わたしは頭を抱えた。
曲水の宴 堀川花湖 @maruuuuuco
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