第13話 帰る場所
翌朝、一同は零光会本部へ戻って仕切り直しをすることになった。信者や住民が行方不明になっている件については、零光会の知らないところで信者の宇佐美が主導して信者や住民を連れ出している事を、山本が証言してくれたお陰で、私の“誤報“はまるっきりのデタラメではないことが証明された。
教祖オリビアは、教団が主導して住民を拉致監禁しているという誤報記事については、訂正記事を“元信者のU氏“によるものとして欲しいと求めてきた。謝罪記事は不要という折り合いで締め括ることとなった。雑誌の記事としては零光会のゴシップとして面白おかしく書いた方が売り上げは上がるだろうが、私はゴシップ担当ではなく、真実に近づくのが目的である。
さて問題は社内での立場だ。2度の“神隠し“騒ぎでまた無断欠勤してしまった。仮にもし次に旧日方邸を訪れるときは予め長期休暇を取るべきだろう。それが許されたとすれば今の立場で居られるが、許されない場合はそれこそゴシップ担当部署か、フリーの契約ジャーナリストにならざるを得ない。
私は会社に長期休暇届を提出するために出社した。
「渡辺くん。行方不明の無断欠勤2回目だな、次は無いぞ?」
「編集長、予め長期休暇届を出しときます。私も目的があって行動しています。いやそうだ、むしろ長期取材の出張扱いで申請しますよ」と私は強く出た。
「なんだと!……うん、わかった。ただしスクープが出なければ君の立場もなくなるよ、渡辺くん」
いつも大声で捲し立てる編集長だが、こう静かに言われると肝が冷える。だがこれで次に神隠しに遭っても会社での立場は大丈夫そうだ。
編集長とのやり取りを終えて席に戻ろうとすると、給湯室の前でマチコと鉢合わせした。
彼女は紙コップにコーヒーを入れたばかりで、湯気の向こうからじっとこちらを見上げてくる。
「渡辺さん、また休暇ですか?」
「取材だよ。少し長めにね」
「またですか……無断欠勤で噂になってましたよ」
口調は軽いのに、瞳だけはまっすぐ射抜くようだった。
「まあ、仕事だからな」
「でも、渡辺さんってまだ三十ですよね? 若手のホープなのに、そんな危なっかしいことばかりして」
彼女の言葉に少し苦笑する。
「まだ三十、か……」
「私は十八です。……十二も違うんですよね」
ふと漏らしたように言うその声に、思わず返答を失った。
「歳の差なんて関係ないって言う人もいますけど……私はやっぱり、気になります」
彼女はそう言って視線を外し、コーヒーを両手で抱えて黙り込む。
私もまた、軽口で返せばいいのに、なぜかできなかった。
距離を保たねばならないとわかっているのに、そのまっすぐな態度にどこか心を揺さぶられてしまう。
「……ま、渡辺さんが無事に帰ってくれば、それでいいんですけどね」
わざと軽く言って彼女は歩き去った。
残された私は、心のどこかに小さなざわめきを抱えたまま、深く息を吐いた。
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