第2話 僕達の名前…
「とりあえず自己紹介でもするか?」
先程のメガネをかけた少年が震える手を隠しながら
必死に言葉を紡いだ。
「言い出しっぺの俺から名乗るが合理的だから名乗らせてもらう。
俺の名前は宮川 優斗
魁皇中学校に通う12歳だ。
頭の良さなら誰にも負けない。
以上だ。」
「か、魁皇中学校!?
超名門中学校じゃない。
それはそれとしてうちの名前は宮川 マリ
年齢は10歳!!
最近妹が産まれたばっかりでしっかりしないといけないなって思ってます。
あ、いかんいかん 関係ないことまで喋ってしまった。」
マリは今にも溢れそうな涙を堪えながら、
ぎこちない笑顔でそう言った。
「他はいないのか?
トロッコ到達までの時間も限られている。
こんなところでうだうだしてる暇はないぞ。」
優斗はガタガタと足を壁にぶつけ、
少しイライラとしている様子だった。
「その態度なんなの?
あんた私に喧嘩売ってんの?」
金色の髪をちらつかせながらすごい剣幕で彼に近づく。
「これを喧嘩売ってるって解釈してしまうあなたの頭の悪さにはびっくりします。
金髪に学ランってところから頭が悪いんだろうな〜っと思っていたけどまさかここまでとは。」
優斗は顔を上に向けてあざ笑うように言った。
「お前喧嘩売ってんのか?
頭がいいのに周りの気持ちは考えられないんか?
自己中のゴミ野郎が舐めた口聞いてんじゃねえぞ!」
彼女は優斗の胸ぐらを掴む。
宙に浮いた優斗は震えながら必死に弁明をする。
「ごめんなさい… ごめんなさい…
暴力と罵倒でしか言い返せないぐらい頭が悪いとは思ってなくて…
自己中なのはあなたなんじゃないかな〜なんつって。」
彼女のもう片方の腕が優斗の首にしがみつく。
「お前マジで殺すぞ…」
彼女の腕がどんどんと彼の首を締め付ける。
「く、苦しい…誰か…」
体をバタバタともがき始める。
「や、辞めなよ…
そんなことしても無駄だよ。」
下を俯きながら酷く絶望した様子の少年が言葉を紡いだ。
少年はゆっくりと立ち上がるとレバーの横に座った。
「このまま喧嘩して、
意見も一致せずに僕らは死ぬだけみたいだな…」
少年は一人レバーを握りしめ、優斗と彼女のことを酷く絶望した顔で見つめる。
「わ、悪かったよ。」
彼女は少し罪悪感を覚えた様子で優斗を解放した。
「チッ 遅いんだよ…理解するのが…
それで学ランヤンキー
お前の名前は?」
優斗は赤く腫れ上がった首をさすりながら、彼女に聞いた。
「私の名前は山凪 琥珀
宮下中の時期番長だ。
年齢は13歳で今は中2
それと次喧嘩売ってきたら容赦はしないからな。」
琥珀は睨みつけるように優斗を凝視した。
優斗は目線を背けながら、
「元はと言えばお前が悪いのに…」
と聞こえないように小さく舌打ちをした。
マリちゃんがレールの側にいる少年の場所に行く。
「あの人達本当に馬が合わないみたいだね。
長女のうちでもあれは流石に手に負えないや…
あなたの名前ゆっくりでいいから教えてくれる?」
マリちゃんは少年の横に座り同じ目線で微笑む。
「ぼ、僕の名前は岸川 小太郎
年齢はまだ9歳だ…
僕にはみんなと対等には関われない…
僕はみんなとは違う…」
小太郎を下を俯きながら顔も合わせずに言葉を紡ぐ。
「小太郎君って言うんだね。
可愛い名前だ。
うち実はね 平然を装ってるけど本当はすごく怖いんだ…
あの二人だって本当は怖いはず。
だからね小太郎君だけじゃないよ。
私達も小太郎君も何も変わらないよ。」
マリちゃんは震える小太郎君の肩にそっと手を置いた。
「おい、あれみろよ!
あいつらこっちみてるぞ!」
優斗はレールに轢かれた人々に指を指す。
人々は何故か驚いた様子で優斗達を眺める。
「う〜 う〜 う〜」
顔に涙をとどめながら何かを必死に訴えている。
その手には赤ん坊が抱えられていた。
「うそだよね…
あれうちの…家族じゃない?」
マリは酷く動揺しながら人々を眺める。
「あの赤ん坊…うちの妹みたいだよ…
横に立ってる人はお父さんだ…
うちらの方ずっとみてるよね…
ねぇ…これどういうこと?」
マリはその場に倒れ込んだ…
家族の助けを求める顔が精神的にマリを苦しめたのだろう。
小太郎が震える拳を抑えつけながらハァハァと息を荒げながら叫ぶ。
「家族なわけないだろ!
目元以外覆い隠されてるし、声も聞いてない。
家族に似た目元をした人間なんていくらでもいる!
それにそんな確率あり得るわけないだろ!」
狭い箱庭に沈黙が続く…
小太郎の唐突な叫びにみんな驚いた様子だ。
琥珀が立ち上がり小太郎に詰め寄る。
「あんたマリのこと信じれないわけ?
マリの家族だったらトロッコを反対側に突撃するようにレバーを降ろせばいいだけじゃん。
少しでも可能性あるなら助ければええだけじゃん。」
小太郎は酷く怯えた様子で
「違うんだ…
家族じゃないと思わないと…
そうじゃないと地獄が始まる…」
小太郎の酷く怯えた様子に琥珀は少し後退りした。
「学ランヤンキー
お前小太郎だけには偉く素直なんだな。
時期番長が9歳の男に恋愛感情ですか…
時期犯罪者に名前変えたらどうでっか。」
「優斗…
次馬鹿にしたら容赦しないって言ったよな?
あんた本当に殺されたいの?」
琥珀がポケットからナイフのような刃物を取り出す。
「正論言われて何も言い返せてないみたいだな。
そのナイフで俺を刺す気か?
俺を刺したら小太郎はお前に口を聞いてくれなくなるぞ。」
優斗は距離をとりながら琥珀を挑発する。
「テメェ!!」
琥珀は一目散に優斗目掛けて走り出す。
「お願いだからうちが原因で争わないで!
もうやめようよ…喧嘩なんか…」
マリは目に涙を溢れさせながら琥珀に叫ぶ。
「このままだとみんな死ぬよ…
二人のせいでマリちゃん死んじゃっていいの?」
小太郎はマリちゃんの肩に手を置きながら二人のことを睨む。
「そもそもこんなクソみたいな場所に閉じ込められてるのがおかしいんだよ。
ここから出せよ 聞こえてんだろゲームマスターのクソ野郎。」
琥珀は手に持っていたナイフを壁に何回も何回も刺す。
「それ以上はダメだ!
ルール外の行動はしちゃいけないんだ!」
小太郎がものすごい勢いで琥珀の元に駆け寄る。
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