第2話僕の好きな女の子

 キーンコーンカーンコーン

 チャイムの音が教室中に響き渡る。

 さっきまでの騒めき声が嘘のように静まり返る。

 ガタッ

 隣の席から座る音が聞こえる。

 隣の女の子があくびをしながら机に倒れ込む。

女の子は鼻水を垂らしながらこちらの方に目線を向ける。

 女の子はニンマリ笑うと、腕を枕にしてゆっくりと目を閉じ始める。

 彼女の寝顔は宝石よりも輝いていて、肌と口はモチモチ感と弾力がひしひしと伝わってくる。

「やっぱり相川さんは可愛いな。」

 僕は思わず声を漏らした。

 薄々勘づかれていると思うが先程言っていた僕の好きな人が彼女だ。

 マイペースな所と好きなように生きてる所が僕にはとても愛おしく感じる。

 もちろん1番好きなのは顔だ。

 彼女の笑ったり喜んでる顔を見るだけで僕の心臓はいつも破裂しそうになるぐらいドクドクと脈打つ。

 彼女を眺めている時だけ知能が猿レベルになる。

 あまりの単純さに時々自分が情けなくなってくる。

 チンパンジーの方がよっぽど立派に生きている。


 チンパンジー以下の僕と彼女じゃ到底釣り合わない。

 そもそもの話友達すらできたことない人間が彼女なんて

 できるわけないんだ。

 ぼっちでコミュ障でなんの魅力も持たない僕には無理なんだ…

「どうせ振られる…」

 僕は俯きながらぼそっと呟く。

 僕はいつまでこのままなんだろう…

 自分の都合の良いように言い訳をして嫌なことがあるとすぐに逃げる。

 こんなクソみたいな人間だから勝手に告白しても振られるって決めつけるんだろうな…

占い師にでもなったつもりかよ。

 僕は俯きながらニヤける。

 ガタッ

 椅子が傾く音が響く。

「相川さんまた寝てるじゃん。」

 クラスメイトの男の子が彼女に話しかける。

「ふわ〜」

 脱力感のある声を奏でながら腕を前に伸ばす。

「せっかく今から王子様と結婚するところだったのに。」

 彼女は少しムスッとした顔でクラスメイトを睨む。

 彼女の怒ってる顔もまた美しい。

 僕にとってはボーナスタイムだ。

 男の子は呆れた顔で顔に手をやる。

「わざわざ王子様が相川なんて選ぶわけないじゃん。

 その王子はチンパンジーか何かか?

 理想ばっかり語らずに今は現実の授業に集中しなよ。」

 彼の言葉は何故か深く僕の心臓に突き刺さった。

 僕は唇を噛み締めながら震える拳を押さえつける。

 僕は相川さんの方に目線をやる。

 相川さんは彼の言葉に耳を傾けず、呑気にあくびをしている。

「チンパンジーでもなんでもいいんだよね〜

 王子様ってさ助けてくれるし私を必要としてくれる人なわけでしょ。

 だったら例えチンパンジーだったとしても私はぜんぜんアリだな〜。」

 相川さんは鉛筆を咥えながら窓から外を眺める。

 相川さんの今にも溶けそうな朧げとした顔に僕は自然と笑みを溢す。

 日光の光が相川さんの鉛筆に反射して僕の心を少しだけ明るく照らす。

彼はため息を吐きながら席を前に戻す。

「相川には敵わないな…」

 ため息混じりの彼の声は小鳥の鳴き声のようで優しさが滲み出ていた。

「小林君の言ってることもわかるんだけどね〜

 でもやっぱり私はわがままだから

 小林君の言う通りにはできないな〜。」

 相川さんは窓越しに飛ぶ蝶を眺めながら、

 ご満悦な様子で言った。

 授業中にも関わらず指で蝶を追っかける姿は何故かとてもカッコよかった。

 彼女なら蝶みたいに羽がなくてもどこにでも飛んでいくんだろうな…

 僕はそんなことを考えながら、蝶に向けて手を伸ばす。

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