5.5 チョッピーズ
飛来するテトラスの身体は、美顔島ディストピア高校の校庭へと落下する。
不運にもこの日、学校では体育祭が行われていた。しかも丁度、その時やっていたのはあの人気種目、人間闘牛だ。赤い布を振る生徒に、牛の真似をする生徒が突進する。澄んでのところで赤い布が翻され、人間闘牛は素通りしてしまう。爆笑の渦に包まれる校庭。
爆笑をかき消す轟音と共に落下するテトラス。何事かと騒ぎ立つ校庭。土煙の中、立ち上がったのは美しい女性。アトラスはもはや大人の身体をした子供ではなかった。あの海岸を離れたあの日から、ずいぶん経つ間に、立派な大人へと変革していた。その美しさは、幼いころの比ではない。
まして、アトラスを囲む生徒たちは、一番血気盛んな時期の子供たち。まるで闘牛の様に熱い鼻息をあげると、アトラスへと襲い掛かる。掴まれるアトラスの身体。誰かの手がアトラスの胸を掴むと、ミルクが弾け飛んだ。
「牛だ、牛がいる!」
人の群れの間から、噴水のようにミルクが立ち上る。周りで見ていた生徒たちの頭上からも降りかかり、熱狂の渦は大きくなっていく。
「何やら外が騒がしいな」
中等部の地下にいるチョッピーは、地上の騒ぎを感じ取っていた。
「ホントに」
チョッピーの膝の上にいた恭子もまた、気配を感じていた。
「行かないと」
どんな騒動であれ、この学校のNo.1教師である自分が解決しなければ。
「私も行こう。心配だから」
電流マシンを取ると、地上へと向かうエレベーターに乗る。
人の渦に飲まれるテトラスは涙を流していた。
「ああ、なぜまた。人の欲望の渦の中心にいなければならないの?」
頬を伝う涙。跳ね返って体を濡らしたミルク。むせかえるような甘い香り。
あの嵐の夏に生まれたテトラス。その体は幾たびも襲い掛かった荒波によって鍛えられたはずだ。叩かれるほどに強度を増す刀のように。
そしてナタネを失い、ここにたどり着いた。
悲しみの渦に飲まれたこの日、テトラスの力が解放される。
「私の電流を感じたいか?」
──ミルクの海を伝い、テトラスの身体になだれ込む電流。
しかし、テトラスの身体は少しも震えなかった。
むしろ、甘みが増していった。
「くそ、効かないだと……!」
自らのミルクを辿り、電流源を察知すると飛びかかる。
「うぶ……!」
自身の胸をチョッピーの口に押し込む。
「ぐは……」
解放されたチョッピーの口からは白い液体がぼたぼたと零れ落ちた。
「くそ、よくもチョッピー教官のことを!」
チョッピーの隣にいた恭子は、腰から棒を抜き取る。
チョッピーに飛びかかり体を浮かしていた、テトラスの股へと棒を突き出した。
ハリケーンに吹きを巻き取られたチョッピーは無防備だった。自身の身体に開いた穴をふさぐものはない。開かれた脚の間に棒が埋没していく。
「うっ……」
未知の感覚に襲われるテトラス。
しかしそれもまた、テトラスの甘さを増すだけだった。
「ぐあ──!」
衝撃で噴き出したミルクの渦に吹き飛ばされる恭子。
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